「……俺、けっこー小夜のこと大事にしてるけどねぇ」
心外そうに口を尖らせ、ドサッと背もたれに身を沈める京。
「可愛いし、バカだけど俺には絶対迷惑かけないし、今んとこかなり気に入ってるよ。だから例え千歳ちゃんのお願いだとしても、簡単には手放せないかな」
ふっ、と流し目で挑発的に見てくる京。
その瞳に瞬く危うげな光に、私はちょっと言葉に詰まる。
「別れてほしいって?」
低く囁かれたその言葉。
私は若干気圧されつつ、こくりと頷く。
「……小夜ちゃんのこと、本当に好きじゃないなら。利用するためにそばに置いてるだけなら」
その言葉に、京はわずかに眉を上げる。
そして次の瞬間、ふっと軽く笑みを浮かべた。
「じゃ、千歳ちゃんが代わりになってよ」
声のトーンが、変わる。
あ、やばい、と思った時には遅かった。
──ドサッ。
視界が反転して、至近距離に京の匂いが濃く香る。
「っ……」
──地雷を踏んだ、のかもしれない。
その瞳に滲む危うさに、息が詰まって、目が逸らせなくて。
逃げたいのに、身体が動かなかった。
「いいよ──俺も千歳ちゃんが他の奴見てんの、気に食わないし」
じりじりと詰められていく距離に、反射的に自分の唇を手の甲で覆う。
……これ以上の接触は危険だって、本能がけたたましく警鐘を鳴らしていた。
「代わりになる気はないから」
精一杯、抗議の視線で睨むけど。
京は、そんな私を前に一瞬目を細めると、ふっと口元を緩めた。
「……無責任」
──グイッ。
私の手はいとも簡単に剥ぎ取られ、唇が重なった。
「──っん、?!」
触れるだけとは違う、支配するみたいな深いキス。
息ができない。
峰間京から初めて感じた所有欲に気圧されて、身動きひとつ取れなかった。
「……っは、」
ようやく唇が離れ、全身からずるりと力が抜ける。
その隙をついて、ドサッ、と乱暴にソファに押し倒された。
「……鷹城葵とはどこまでしたの、皆戸遥風とは?」
「待っ……」
「なぁ──いつになったら俺のこと見てくれんの?」
目眩がするほどの色気、危うい衝動。
このまま流されてしまえば壊されることは分かってるのに──
その瞳の奥の、何かに縋るような色を見つけてしまって。
拒むのを、躊躇ってしまった。
再度重なる唇。
今度は角度を変えて、何度も口付けしてくる。
──チュ、チュッ。
わざと響かせるみたいなリップ音に、媚薬が脳内に回っていくみたいな感覚。
キスをしたまま、京の手が、するり、と服の中に入り込んで、その刺激にびくっと身体が跳ねる。
思わず京の腕を掴むけど、その手はいとも簡単に取り払われて、そのまま頭上で固定されて。
「……抵抗すんなよ」
その熱のこもった低い声に、心臓が痛いほど加速する。
私が受け入れれば、京は救われるんだろうか。
そんな思考さえ脳裏によぎった──そのときだった。
