翌朝。

まだ白んだ空に月の輪郭がかすかに残るような時間に、目を覚ましてしまった。

やっぱり、人の家で寝るのって向いてないな。

そんなことを思いながら、顔を洗って軽く身支度を整える。
髪を櫛でといて、サイドでゆるく一つにまとめる。
冬は乾燥するから、色付きのリップクリームでちゃんと保湿して、ハンドクリームもきちんと塗る。

こういう容姿への気配りも、親の影響なんだろうな、と思うとちょっと嫌になるけれど、染みついた習慣はどうにもできない。

……この容姿がなければ、私の人生はどんなふうに変わっていたんだろう。

他の女の子みたいに学校に行って、普通に勉強して、普通に恋愛して……ちゃんと、自分のやりたいことができていたんだろうか。
……なんて、今更そんなことを考えても仕方ない。

私は軽くため息を吐くと、洗面所から廊下を通ってリビングへ出る。

すると。

「あ、おはよー」

まだ薄暗い部屋の中、ソファに座った京がスマホから顔を上げた。

寝起きだからか、髪はさらさらのノーセットで、長めの前髪の下から見える目はいつもより眠そう。

「こっちおいで」

ポンポン、と自分の隣を叩き、ゆるく微笑みかけてくる京。
私は流石にちょっと躊躇う。

「……小夜ちゃん起きてきたらどうするの」

「だいじょーぶ。小夜以上に寝起き悪い子見たことないから」

本当かな……。

とはいえ、私はその場に突っ立っているわけにもいかないので、京と少し距離を置いてソファに腰掛けた。

「なに、その微妙な距離は」
「……別に」

はぐらかして、とさっと背もたれに身を預け、ポケットからスマホを取り出すと。
開きかけたスマホが、目の前からひょいと奪い取られた。

「せっかくだし話し相手なってくんない?」

机に私のスマホを置き、悪戯っぽく笑いかけてくる京。

……まつ毛が長くて、横顔のラインが綺麗。

この距離になると、やっぱり顔が良いのを認めざるを得ないんだよな……。

って、そんなことを考えてる場合じゃない。

また寝ぼけてモヤがかかったような脳内を無理やり覚醒させ、再び京から距離を取る。

「……そうやって女の子誰彼構わず絡むのやめなよ。昨日小夜ちゃんと話したけど、多分あの子、京を人生の全てみたいに捉えてる。そんな態度で向き合うのは残酷だから、いっそ別れた方がいいんじゃないの」

そう言って、じっ、と京の出方を伺う。

……きっと京は、何か自分の目的のために小夜ちゃんを利用してる。

だから、きっと相手のことを思って別れるなんて選択肢、はなから無いんだろう。