さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


「……そーやっていっつも余裕ぶってんのがお前の弱みだよね。恋愛においても、パフォーマンスにおいても」

ぽつり、と口にした葵に、京の動きが止まった。

葵は続ける。

「作った笑みでひた隠して、絶対に焦りとか、汚い側面を見せない。弱み見せたら負けだと思ってんの?」

「……」

京は無言で立ち上がり、窓を開けた。
冷たい冬の夜の空気が、部屋に流れ込む。

「ある程度弱さを見せないと、人は共感しづらい。だから、自分の汚さをひた隠すつまんないパフォーマンスなんて──誰の心にも届くわけない」

京は窓枠にもたれながら、暗い空に白い煙を燻らせる。

もう葵に視線を向けようともしない。

葵は構わずに続ける。

「剥き出しの自分を見せて、傷つくのが怖いから?弱さを見せたら、また壊されると思ってる?」

じっ、と京の横顔に強く視線を投げる。

「──『あいつ』のこと、まだ相当引きずってんだ」

その瞬間、京の肩がピクリと動いた。

風が吹き込む音にまぎれて、小さな沈黙が落ちる。

数秒間の静けさの後。

「……何のことだか」

貼り付けた笑み、不自然に明るい声音。

揺らぎ、今にも爆発しそうな感情を、いつもの仮面で咄嗟に押し隠した。

またか、といったふうにこめかみに手を当て、ため息を吐く葵。

そんな葵をよそに、京は窓を閉め、煙草を灰皿に押し付ける。

「眠くなってきたんで布団敷いてきまーす」

ひらりと手を振るようにして、部屋を出ていく京。

──バタン。

静寂が、部屋に満ちた。

わずかに残る煙草の匂いと、風の通った空気の余韻。

葵はしばらく動かずに、ぼんやりと一点を見つめていた。

「カンナさん、俺に丸投げしやがって……」

葵はデスクチェアに深くもたれ、ため息を落とす。

一体どうしたら、あの拗らせた少年の才能を正しく咲かせることかできるのか。

答えは、まだ見えない。

灰皿の中で、燃え尽きた煙草が、静かに崩れ落ちていた。