「……小夜ちゃんはそれでいいの?」
恐る恐るそう投げかけると、小夜ちゃんは一瞬息を詰まらせ──けれど、すぐに取り繕って笑った。
「私は京くんの役に立つ代わりに、京は私を捨てない。恋愛じゃなくて、そういう『契約』だから。そっちの方が確かで、安心できるじゃん」
なんでもないことのように言う小夜ちゃんを、何も言えずに見つめる。
……京にとって楽で価値がある女になることで、捨てられない。
そんな『法則』に則って、偽物の愛を享受する。
小夜ちゃんは、割り切ってるって言ってるけど、それで本当にいいんだろうか。
もし、そこまでして尽くした相手に、本当に『好きな人』がいたとしたら。
自分はこんなにも努力しているのに、その人は何もせずとも京の本物の愛を得ることができる。
そんな存在が現れたら、果たしてこの子は自分を保てるんだろうか。
そんな私の懸念を汲み取ったのか、小夜ちゃんはちょっと肩をすくめた。
「別に無理してるわけじゃないよ──だって、こうすることで、私は京の『最期の彼女』になれるから。それ以上に嬉しいことってある?」
最期の彼女……?
本能的に、脳内で警鐘が鳴った。
京が小夜ちゃんに何を言ってるのかは分からない、どう利用しようとしてるのかも分からない。
けど、絶対にその方向が破滅的な道である、ということは嫌でも直感できた。
まさか、心中でもするつもりじゃないだろうか。
言葉に詰まる私をよそに、言いたいことは言い終えたかのように、再びスマホに視線を戻す小夜ちゃん。
その人形のように整った横顔は、空虚で孤独で、どこか京に似ていた。
……きっと、この子は何かの目的のために利用されてる。
そして、このまま放っておいたら──きっと、取り返しのつかないことになるんじゃないか。
静寂の落ちる部屋の中、私はひとり、強い危機感を抱くのだった。
