けど、二人きりになった以上、どうにかして空気を良く保たないと居た堪れない。
彼女が今欲している話題、といえば──
「聞いていいか分かんないけど、家庭環境複雑、っていうのはどういう?」
私は深刻そうな表情を作って、遠慮がちに聞いてみた。
複雑な家庭環境のことをわざわざ自分から話すのは、きっと誰かに聞いてほしいってことだと思う。
すると案の定、小夜ちゃんはすぐさま口を開いた。
「私の親、堅気じゃない」
「……というのは」
「一言で言えば、ヤクザ?」
予想の斜め上をいったその答えに、私は一瞬言葉に詰まった。
そんな私の反応を見もせず、続ける小夜ちゃん。
「親がそんなだから、ウチ自分で稼がなきゃ生きてけなくて。もともと年齢詐欺ってキャバやってたんだけど、そこの太客繋がりで地下アイドルになったの」
緩いパーカーの袖口から覗く手首がやけに細くて、痛々しい。
自分で身を売って、自分で居場所を作って、誰にも頼らずに生きてきた。そうせざるを得なかった。
そんな自給自足の人生を送ってきたからこそ、葵とか、京とか、性格の捻くれた男に深くハマって、拠り所としてしまうんだろう。
「あ、そんな心配しなくていーよ?私から葵くんとより戻そうとすることは絶対ないから。外見はマジで好みだけど、最低な捨てられ方して、流石に割り切ってるしね〜」
あはは、とどこか乾いた笑みを浮かべる小夜ちゃん。
その表情には、諦めとも未練とも取れない、複雑な色が絡み合っていた。
どう声をかけるべきか迷っていると、再度、小夜ちゃんの強い視線が私をとらえた。
そして、一言。
「そのかわり──京くんには絶対、手ぇ出さないでね?」
鋭く、低くなった声。
甘い顔立ちにそぐわない、棘と陰のあるその視線に、ちょっと息が止まる。
「京くんは私の命より大事な、全部だから」
はっきりと告げられたその言葉に、背中がぞくりとした。
──単なる恋愛感情じゃない。
例えるとするなら、信仰に近い執着。
きっと今の小夜ちゃんは、京がいなくなったら生きていけない、と直感した。
京がそれを分かってそうなるように仕向けているのだとしたら──それは、とても悪質だ。
「……捨てられた過去があって、今回も遊ばれてるかもとか思わないの?」
目を覚ましたほうがいい。
その一心で投げかけた言葉に、小夜ちゃんは少しも表情を変えることはなかった。
そして、まるでごく当たり前のことを言うように──
「いや私、全然遊ばれてるよ。京くんは私なんかに興味ない」
あっけらかんと言った彼女を前に、私は硬直することしかできなかった。
「じゃあなんで……」
「京くんはどんな女にも平等にキョーミないの。だから誰のものにもなんないし、私もそれを分かって割り切ってる」
小夜ちゃんは私の目をじっと見てきた。
その瞳は、黒目がちでつぶらで、一見すると幼いのに──どこまでも深く、暗かった。
好かれることは諦めていて、それでもいいから、一緒に居られる道を選んだんだ。
