小夜ちゃんはソファに深く腰を沈めたまま、無言でスマホをいじっている。
指が器用に画面を滑るたび、ネイルが小さくカツ、カツと乾いた音を立てていた。
私は、自分のスマホを取るふりをして、さりげなく少し距離を取る。
無言の空気が重い。
仲良くね、と言われても、会話を始めるにはあまりにも気まずすぎた。
……たぶん、京はこの夜、私と葵が一緒に寝るような流れになるのを全力で妨害したかったのだと思う。
でも、そのやり方があまりにも強引すぎて、結果として小夜ちゃんの機嫌をこれ以上なく悪くさせていた。
私にぶん投げやがって……。
心の中で京に毒づきながら、私はテーブルに置かれていたペットボトルに手を伸ばす。
手持ち無沙汰をどうにかしたい、その一心で口をつけた、その時だった。
「……冬優ってさー、葵くんともうヤッたの?」
「げほっ」
唐突すぎる質問に、思いきりむせた。
咳き込んで涙目になりながら、小夜ちゃんを見上げる。
「……なんで?」
私の問いにも、彼女はスマホから一切視線を上げないまま、無表情で言葉を続けた。
「気になっただけ。なんか葵くん、あんたにめちゃくちゃ入れ込んでるっぽいし?相性よかったのかなーって」
「……」
「どう?上手いっしょ?やっぱ遊んでるだけあるよね」
ちょっと苦手なんだよなぁ、こういう類の話。
できるだけ避けたいけれど、このまま口ごもっていても不審がられる。
そう思った私は、なんとか違う方向に話題を向かせようとした。
「……そういえば、小夜ちゃんって葵くんとどうやって知り合ったの?」
少し不自然だったかなと、言ってから少し後悔する。
小夜ちゃんは指を止めて、ようやくスマホから目を離すと、わずかに目を細めた。
「……なに、気になんの」
「いや、どういう繋がりなんだろうって、率直な疑問で」
「ふーん……」
一拍の沈黙。
その後、小夜ちゃんはふいに小さく笑って、ソファの背もたれにゆったり身を預けた。
艶のあるボブヘアが、首筋をなぞるように揺れる。
ピアスが控えめに光り、小動物みたいな黒目がちの目が、ちらと私を見た。
「地下アイドルってさ、けっこうメジャーなアイドルと繋がることあるんだよ。接待とかに呼ばれて」
「接待」
「うん。で、そこで葵くんと知り合った。2年前かな。私が高1、葵が高3」
そう言って、小夜ちゃんは昔を思い出すように目を伏せた。
「私も葵くんも家庭環境複雑で、だからこそお互いに色々辛い過去とか話せたんだ。普通の家庭で育って普通に推し活に金を注ぎこめる一般人のお嬢様には、わかんないだろうけど」
チクリ、と刺すような言葉に、私はちょっと頬を引き攣らせる。
ダメだ、やっぱこの子、私のこと大嫌いそう……。
