と、そんなことを思っていると不意に、葵がドサッと私に体重を預けてきた。
「もーなんか一気に疲れた……俺らベッド行こ、千歳」
「?!」
急な爆弾発言に、思わず目を見開く。
京はちら、とこちらに視線を寄越し、小夜ちゃんはぴくりと片眉を上げる。
「珍しー。葵くんって自分から誘うんだ。いつもそーなの?」
「い、いつもっていうか……一緒に寝たことすらないです!」
慌てて必死に弁解するけど、小夜ちゃんは茶化すように笑う。
「またまた、そんなわけないじゃーん。ね、京?」
話を振られた京は、ようやく私に視線を向ける。
まるで初対面の女の子に向けるみたいな、完璧に作られた笑顔。
「冬優ちゃんだっけ?葵くんから話聞いてるよ。可愛いね、何歳?」
「……18です〜」
ぎこちない笑みを浮かべながら、私は嘘の年齢を口にした。
その言葉にも京は動揺することなく、「あれ、じゃあ俺後輩?」と楽しげに笑い、差し出してきた手を軽く上下に振った。
「峰間京っていいます。よかったら仲良くしてくださーい」
完璧に取り繕ったその態度に、内心で少しため息が漏れる。
必要以上に接触してくるのやめてよ……。
案の定、横では小夜ちゃんが腕を組んだまま、明らかに不機嫌そうに口を噤んでいた。
抑えているつもりだろうけど、目の奥に微かな苛立ちが煮えているのが分かる。
やばいやばい、と内心焦りながらも、私はなんとか貼り付けた笑みを保った。
「ってか、18なら小夜と同い年じゃん。今夜仲良くしてやってくれません? こいつ、女友達マジでいないんで」
「……別に、女友達とかいらないしー」
不貞腐れた声で、小夜ちゃんがむくれたように呟いた。
唇を尖らせてスマホに目を落とすその姿は、拗ねた猫みたいで、同性の私から見ても心臓がギュッとなる可愛さ。
それでも京は「まー、そう言わずに」と軽く流し、私と小夜ちゃんの手を無理やり繋がせた。
「はい、じゃああとは二人で仲良くってことで」
まるで飲み会の席を仕切るみたいな調子で言いながら、京は今度は葵に向き直る。
「葵くんは、ちょっと来てください。パフォーマンスで聞きたいことあるんで」
「は? お前、ちょっと……」
葵が怪訝な顔で返すが、京は聞く耳を持たない。
ぐい、と力強く葵の腕を引っ張り、そのまま作業部屋のほうへとずかずか進んでいく。
「京、てめっ──」
葵の抗議も空しく、バタン。
あっけなくドアが閉じられる。
そして残されたのは──
リビングの真ん中にぽつんと取り残された、私と小夜ちゃんだけだった。
