そして、およそ30分後。

「京くん!待ってたー!」
「はーいお待たせ」

葵宅に到着した京に、すぐさま駆け寄る小夜ちゃん。

「ん、なんか小夜今日めっちゃ可愛い。髪変えた?」
「うん、もうすぐライブだからメンテ行ってきた!」
「いーじゃん、似合ってんね」

さら、と髪に指を通され、ちょっと俯いて頬を赤らめる小夜ちゃん。

……小夜ちゃんレベルの、今まで見たことないくらい可愛い女の子がこうも簡単に絆されてしまうのを見ると、京ってやっぱり女の子を手玉に取る天才なんだなって思う。

呆れ半分、感心半分でその光景を見つめていると、不意にばちっと京と目が合った。

その途端、小夜ちゃんの肩越しに目を合わせ、ふっと口角を上げてくる京。

……京にはさっきLINEで、私が葵のファン兼彼女である『冬優』を名乗っている設定を伝えておいた。

だから、流石に弁えてくれるだろうと思っていたのに……疑われるような行動やめてよ、とちょっと睨み返す。

「京、最近全然抜け出して会いに気てくんないじゃん。嫌いになっちゃうよ」
「なれないっしょ」

可愛く拗ねる小夜ちゃんの頭を、慣れた手つきでポンポンと撫でる京。

そんな光景を見て、心底鬱陶しそうに眉根を寄せる葵。

「……あんたらさ、ホテル代やるから、今すぐ出ていってくんない?」
「なーに言ってんすか。俺泊まる気満々っすよ」

へらりと笑って、床に重そうな鞄をどさっと下ろす京。

「知らないって。まず布団ねーってば」

葵がそう吐き捨てた瞬間、ピーンポーン、と部屋に響くインターホン。

固まる私たちをよそに、京だけが『待ってました』と言わんばかりにモニターの電源を入れる。

『あっ、やすらぎ貸し布団の者ですー』

モニター越しに響いたその声に、葵の頬がぴくっと引き攣った。

──やりやがったな、峰間京。

「頼んどきました」
「ふざけんなよ」

爽やかな笑顔で親指を立てる峰間京に、天を仰ぐ葵。
峰間京、本当に今回で落とされるな……。

呆れる私をよそに、さっさと玄関へ向かい、本当に布団を持ち込んでくる京。

「レンタル代は俺持ちっすよー、貸しひとつっすね」
「何がだよ頼んでねーよ」

苦虫を噛み潰したような顔になる葵、けらけらと楽しそうに笑う小夜ちゃん。

なんだか、今回ばかりは葵に同情せざるを得ないな……。