長いまつ毛に縁取られた大きな瞳に捉えられ、ちょっと心臓が高鳴る。
「ところでキミ、葵くんの彼女?」
不機嫌さも好奇心もない、フラットな視線。
それが逆に威圧感があって、ちょっと言葉に詰まってしまう。
すると、私が否定するよりも先に。
「そ、可愛いでしょ」
横から、さらっと口を挟んでくる葵。
あまりにナチュラルに嘘をつかれたので、私は否定するタイミングも失って、硬直することしかできなかった。
「ふーん、名前なんてゆーの」
興味なさげに自分のネイルを見ながら聞いてくる小夜ちゃん。
……ここで本名を答えたら、男装バレまっしぐらの自殺行為だ。
私は、エマプロの榛名千歳だと気付かれないように仕草も表情も変えつつ、反射的に頭の中に思い浮かんだ名前を口にする。
「えーと、冬優っていいます」
冬優。今は亡き母親の名前。
偽名に使うには微妙に珍しかったか、と一瞬後悔したけど、小夜ちゃんは特に気にしていない様子。
「へー、冬優って、どっかのアイドル?ウチのこと知ってる?」
「あ、えーと」
私が上手い言い訳を練ろうとちょっと口ごもっていると、すぐさま横から助け舟が。
「アイドルじゃなくて、普通にファンの子。握手会とかでかわいーなって目つけて、俺から声かけた」
「うわ、まーたファンの子に手ー出してー」
呆れたように言う小夜ちゃんの横で、私もちょっと苦笑する。
とりあえず、今は葵の話に合わせるほかない。
こういうときの上手い言い訳を考えるのとか、絶対葵の方が慣れてそうだし、任せておくか。
「気をつけた方がいいよー。葵くん、マジで他人に興味ないから。自分のこと分かってくれてるって思っても、それは攻略されてるだけ。早く目覚ましな?」
あんたより私の方が葵に詳しいから、って言外に主張されてるようなその言葉に、私は心の中でちょっと眉根を寄せる。
ああ、これが噂に聞く、『元カノマウント』か……。
私は葵のこと本気で好きじゃないからいいけど、もし本当の彼氏だった場合、多分かなり嫌だろうな、これ。
