初めての収録が無事に終わって、参加者たちは寮棟1階にある食堂で夕食をとっていた。
イヤホンから流れてくるのは、キャッチーでポップな電波ソング。アイドルグループ『Sweet×Harmony』の『Sugar⭐︎Dream』だ。目の前に立てたスマホ画面の中では、色とりどりの衣装に身を包んだメンバーたちが愛嬌を振りまきながらパフォーマンスしている。
さっき少し練習してみたけど、サビの音程がとにかくハイトーン。
男声のままこの音域を出すのは相当テクニックがいるなぁ、って感じ。
振り付けも、アイドルソングだからってナメてかかれない。跳ねるような振り付けが多くて、かなりの運動量だった。
まあ、練習あるのみだな。
明らかにネタ枠で用意されたであろう課題曲にも関わらず、地味に難易度が高いのが気に入らない。
そんなふうに思いながら、私は味噌汁を口に運ぶ。空腹だったせいか、温かい出汁がじんわりと染み渡って、思わずほっと息を吐いた。
『Sugar⭐︎Dream』のMVをスマホで見ながら食事をしていると、不意に、目の前に影が落ちた。
顔を上げると、そこには見覚えのない一人の参加者。
少し跳ねた毛先、切れ長で奥二重気味の目元、すっと通った鼻筋。
全体的に無造作な雰囲気を纏った美少年。
特にマークをしている参加者ではなさそうだけど……何の用だろう?
「なぁ、お前さ……スイモニのパフォーマンス、全力でやれよ。頼むから、いい加減にやらないでくれ」
ぶっきらぼうな声音。
スイモニって……ああ、『Sweet×Harmony』ね。
脳内でその言葉を処理しつつ、周囲のカメラを確認する。
ついていないらしい。今日一日過ごして分かったことだけど、寮棟にはあまり撮影用のカメラがついていない。参加者のプライバシー保護のためかな。
まあ、何にしろ、撮影されていないならやることは一つ。
──嫌われとこう。
私は演技のスイッチを切り替える。
嘲りの表情を作って、彼に冷たい視線を投げる。
「誰、お前」
「小山明頼。スイモニデビューからずっと推してきた最古参だ」
その瞳にからかいの色は無くて、至って真剣。
好きなアーティストの曲を汚されたくない、その一心なんだろうな。
申し訳ないけど、地雷踏ませてもらうよ。
私はバカにするように片頬を歪め、うざったそうに髪をかき上げ、挑発的な口調で言い放つ。
「お前、よく推せんね。こんなバッカみたいなグループ」
「……は?」
「いや、普通に嫌じゃない?こんな脳内空っぽそうな女たちの曲やんの」
マジでネタ枠最悪、と大袈裟にため息を吐く。
すると、次の瞬間。
体が浮き上がった。数秒後に、胸ぐらを掴まれたのだ、と理解した。そのときの勢いで、テーブル上のグラスの水が少し溢れる。
「お前が……スイモニの何を知ってるってんだよ」
怒りに打ち震えた瞳が、数センチ先で揺らめく。
周囲で食事をしていた参加者たちは、この騒ぎに気づき、なんだなんだとこちらを見てくる。
「知らない。知ろうとも思わない」
その瞬間、目の前で拳が振りかざされた。
殴られたら、顔に傷ができるかも。
それを理由にリタイアできたりしないかな。
そんな呑気なことを考えながら、私は衝撃を待った。
しかし、その痛みが訪れる前に。
パシッ。
振り下ろされる寸前の拳が、第三者の手によって静止された。
イヤホンから流れてくるのは、キャッチーでポップな電波ソング。アイドルグループ『Sweet×Harmony』の『Sugar⭐︎Dream』だ。目の前に立てたスマホ画面の中では、色とりどりの衣装に身を包んだメンバーたちが愛嬌を振りまきながらパフォーマンスしている。
さっき少し練習してみたけど、サビの音程がとにかくハイトーン。
男声のままこの音域を出すのは相当テクニックがいるなぁ、って感じ。
振り付けも、アイドルソングだからってナメてかかれない。跳ねるような振り付けが多くて、かなりの運動量だった。
まあ、練習あるのみだな。
明らかにネタ枠で用意されたであろう課題曲にも関わらず、地味に難易度が高いのが気に入らない。
そんなふうに思いながら、私は味噌汁を口に運ぶ。空腹だったせいか、温かい出汁がじんわりと染み渡って、思わずほっと息を吐いた。
『Sugar⭐︎Dream』のMVをスマホで見ながら食事をしていると、不意に、目の前に影が落ちた。
顔を上げると、そこには見覚えのない一人の参加者。
少し跳ねた毛先、切れ長で奥二重気味の目元、すっと通った鼻筋。
全体的に無造作な雰囲気を纏った美少年。
特にマークをしている参加者ではなさそうだけど……何の用だろう?
「なぁ、お前さ……スイモニのパフォーマンス、全力でやれよ。頼むから、いい加減にやらないでくれ」
ぶっきらぼうな声音。
スイモニって……ああ、『Sweet×Harmony』ね。
脳内でその言葉を処理しつつ、周囲のカメラを確認する。
ついていないらしい。今日一日過ごして分かったことだけど、寮棟にはあまり撮影用のカメラがついていない。参加者のプライバシー保護のためかな。
まあ、何にしろ、撮影されていないならやることは一つ。
──嫌われとこう。
私は演技のスイッチを切り替える。
嘲りの表情を作って、彼に冷たい視線を投げる。
「誰、お前」
「小山明頼。スイモニデビューからずっと推してきた最古参だ」
その瞳にからかいの色は無くて、至って真剣。
好きなアーティストの曲を汚されたくない、その一心なんだろうな。
申し訳ないけど、地雷踏ませてもらうよ。
私はバカにするように片頬を歪め、うざったそうに髪をかき上げ、挑発的な口調で言い放つ。
「お前、よく推せんね。こんなバッカみたいなグループ」
「……は?」
「いや、普通に嫌じゃない?こんな脳内空っぽそうな女たちの曲やんの」
マジでネタ枠最悪、と大袈裟にため息を吐く。
すると、次の瞬間。
体が浮き上がった。数秒後に、胸ぐらを掴まれたのだ、と理解した。そのときの勢いで、テーブル上のグラスの水が少し溢れる。
「お前が……スイモニの何を知ってるってんだよ」
怒りに打ち震えた瞳が、数センチ先で揺らめく。
周囲で食事をしていた参加者たちは、この騒ぎに気づき、なんだなんだとこちらを見てくる。
「知らない。知ろうとも思わない」
その瞬間、目の前で拳が振りかざされた。
殴られたら、顔に傷ができるかも。
それを理由にリタイアできたりしないかな。
そんな呑気なことを考えながら、私は衝撃を待った。
しかし、その痛みが訪れる前に。
パシッ。
振り下ろされる寸前の拳が、第三者の手によって静止された。