さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


「録れる?」

葵の言葉に、私はこくりと頷いた。

慣れた手つきでパソコンを操作し、私のパート付近からトラックを再生する葵。

……さっさと終わらせて、部屋に戻ろう。

そんなことを思いながら、私は軽くリリックを口ずさみ始めた。

『Booting up again, another empty show』

地声で歌を歌うのは久しぶりだった。

頭を働かせて無理に調整しなくても、するりとメロディを紡ぐことができる。

あ、楽だな、とちょっと驚きながらも、私は義務的に続ける。

『Programmed to shine, but never truly speak』

そのパートの最後の節を歌い終わると、トラックが静かに止まった。

……やっぱり、男声より断然歌いやすい。

そりゃそうか。

だって、これまでの人生のほとんどは、この声で歌う練習をしてきたんだから。

そんなことを思いながら、私はヘッドフォンを軽くずらす。

葵に視線を戻すと、バチッと目が合った。

その視線の強さに、ちょっと息がつまる。

……何か間違えたっけ?

少し背中に冷や汗をかいた、次の瞬間。

「……いいじゃん。声、めっちゃ好き」

さらっとしたトーンだけど、ストレートな褒め言葉。

……何気に、自分の本当の声を褒められたのは初めてかもしれなくて、ちょっとドキッとしてしまった。

何度かトラックを巻き戻しては聞き、カチカチと慣れた手つきで微調整を繰り返す葵。

「ん、やっぱ思った通り。こういう透明で整った音が欲しかった」

調整を終えたのか、そう言ってヘッドフォンを肩にずらし、デスクチェアにトサッと背を預けた。

そして、くるりと椅子を反転。

視線が交錯する。

その瞳には、口調のクールさとは少しちぐはぐな熱がある気がして、ちょっと嫌な予感。

「……千歳」

呼ばれて、恐る恐る視線を合わせる。

「これさ。試しに録らせてみるだけのつもりだったけど……」

言いかけたところで、少しだけ間が空いて──

「……本格的に、参加してよ」
「……は?」

思わず、変な声が漏れた。

……何を言ってるんだろう、この人は。