今日の晩御飯のメニューは、鶏の照り焼き、厚揚げと小松菜の煮浸し、白米に、わかめと豆腐の味噌汁。
一見、昨日までと何も変わらない距離感のように思えて、どこか間が持たないような空気が終始流れていた。
理由は簡単。私が、話を広げようとしないから。
「峰間京、俺に指摘された後何か言ってた?」
「あ、はい」
「なんて?」
「さあ」
「……」
って感じで最低限の会話だけして、少しでも距離が詰まりそうになったら、笑って誤魔化すか、そっと会話を切って、皿洗いに逃げたりお風呂に逃げたり。
……って、この空気、普通に私も居心地悪いんだけど。
けど、作戦に必要なら耐えるしかない。
そんなふうに思いながら、私は鏡の前、ドライヤーで整えた髪を緩く束ね、バスルームを後にした。
リビングに戻ると、葵は自室で作業中のようで。
開けっぱなしのドアから、集中しているような葵の姿をちょっと覗き見る。
デスクチェアに腰掛け、ヘッドフォンを耳に当ててスクリーンを睨むその表情は、真剣そのもの。
あんまり邪魔しちゃいけないかな、と思って音を立てずに去ろうとしたところ。
「千歳」
ノールックで名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。
「来て」
その有無を言わせぬ声音に、低くて、落ち着いた、けれど有無を言わせない声。
逃げ場のない雰囲気。
私は、言われるままに部屋に入る。
葵はデスクチェアの背もたれに体を預け、ようやく私に目を向けた。
そして、少し眉をひそめる。
「……なんか今日、よそよそしくね?」
──ついに、言われてしまった。
直球の質問に、心の中はめちゃくちゃ動揺したけど、長年培ったスキルでなんとかそれを押し隠す。
「疲れてるからですよ」
できるだけフラットなトーンで答え、軽く肩をすくめて見せる。
「それだけですか?」
「なわけ。そこ座って」
ほぼキレ気味にデスクの横に置かれた回転チェアを顎で示され、私は渋々腰を下ろす。
……簡単には逃げられない雰囲気だ、これ。
心の中でちょっと冷や汗をかきつつ、表には出さないように表情管理。
葵は軽く息を吐くと、くるりとデスクチェアを回転させ、私に向き直った。
「今作ってる曲のコーラス部分、録ってみてくんない?」
