さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


ちょっと俯いて考え込む私に、京が身を起こして歩み寄ってきた。

「千歳ちゃん、もしかして、葵に嫌われるのが怖いって思ってないよね」

私のそばにしゃがみ込み、ずいっと詰め寄ってくる京。

その言葉に、ちょっとぎくりと心臓が固まる。

……そんなことはない、はず。

一瞬目を泳がせてしまったのがバレたのか、京は軽くため息を吐いて──次の瞬間、私の手を取った。

そして、指を絡めて、柔らかく囁く。

「駆け引きは、臆病になった方が負けだよ。絶対に本性も弱さも見せんな。常に優位に、余裕でいて」

まっすぐに私の目を見つめてくる京。その視線から、妙に逃げたくなる。

京は、そんな無茶な言葉を、何度も何度も自分自身に言い聞かせてきたんだろうか。

……峰間京という人間を見る時、毎回絶対に引っ掛かることがある。

決して自分の話を深くまでしない。自分の弱さを突かれたら、一気に距離を取る、その対人傾向。

……それは、京が自分の弱さを表に出さないための自己防衛なんじゃないか。

彼に、そこまで分厚い仮面を強要させた出来事は、いったい何なのか。

なんて、きっと聞いても教えてくれないだろうけど。

と、その直後。

コンコン、と軽く部屋がノックされる音。

「……来たね」

ガチャ、と扉を開けると、そこには葵の姿。
私の姿を見とめるなり、いつもみたいに薄く微笑む。

「荷物貸して」
「え、あ……」

私が返事をする前に、葵がひょいと私のバッグを肩にかけた。

不意打ちの優しさに、ちょっと言葉に詰まりそうになったけれど──

「ありがとうございます」

動揺を見せちゃダメだ。

私は、これから彼に『距離感』を意識させなきゃいけないんだから。

今までだったら照れをそのまま見せていたところを、取ってつけたような笑みで繕ってさらりと返すと、葵の片眉が微かに上がった。

よそよそしさに気づいた?

肩越しにさりげなく京に視線をずらすと、満足げに頷いている。

……こんな感じでいいのか。

これで、葵の中に何か『引っかかり』を残せれば、作戦通りってことだよね。

私はそう整理すると、ちょっと息を吐いた。

パフォーマンスもだけど、葵との駆け引きも、気は抜かない。

──主導権は、私が握る。

そう、心の中で決意して。