さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


すぐに、聞き慣れた音がスタジオ内に流れ出す。

浮遊感のある、洒落たシンセサイザーのイントロ。

トランペットやピアノなどの生楽器が重なり、お洒落でどこか退廃的な空気感を作り出す。

そして、葵が振り返った瞬間……不安は、一気に吹き飛んだ。

彼の目を鏡越しに見た瞬間、胸が焼け爛れたような、痛みにも似た衝撃に襲われる。

不敵に微笑んで、華麗に誘うような、しかしどこか虚ろな視線。

人を惑わす甘美な、けれどまるで人生を棄てているような。

ただ上手に魅せる、だけじゃない。

この楽曲の根底にあるダークな部分。

アンバーグラスで強いカクテルを流し込み、自分を棄ててしまいたいと願う感情。

自分の人生の闇の部分、苛烈な経験を、完璧に『表現』に昇華するその力を前に、呼吸が止まった。

『JACKPOT』随一の表現力を持つ鬼才の名は、伊達じゃなかったらしい。

甘い夢を見せるような京のスタイルも、もちろんこの曲の大人びた雰囲気にマッチする。

けれど、それをも凌駕する、孤独、渇望、痛みという側面を存分に曝け出す葵の衝撃。

作られた美しさの裏に、その暗い内面を敢えて垣間見せることで、胸焼けするような色気を爆発させる。

そんな、命を削るようなパフォーマンス。

同じ振り付けを踊っているはずなのに、他の四人と、葵とで、全く違うものに見えてしまう。

ベーシックなスキルに驚くほどの差はないにも関わらず、だ。

その存在感、オーラ、感情の乗せ方、全てが段違い。
これが、あの巫静琉に『世に出さなければならない』とまで言わしめた、鷹城葵。

その衝撃と共に、焦燥感が、脳内をぐちゃぐちゃにする。

このままじゃ、私は本当に空気同然になる。

……追いつかないと。

表情作り、力を入れるとこ、抜くとこ。声にどれくらい息を含ませて、どんなふうに発声してる?

盗むんだ。

圧倒されるな。

──食らいつけ。

脳みそが焦げそうになるほど思考を回して、指先ひとつ、呼吸ひとつにまで意識を研ぎ澄ませた。

限界まで自分の出力を上げて、やっと……やっと、最後のビートが止まる。