そして、約一時間後。

ダイニングのテーブルには、湯気を立てる朝ご飯が整然と並んでいた。

大ぶりの具がたくさん入った味噌汁。
香ばしく焼かれたおにぎり。
ふっくら甘い卵焼きに、彩りを添える柴漬けと小鉢の菜の花おひたし。

「……なにこれ、旅館?」

呆気に取られたように立ち尽くす葵の後ろから、パーカー姿の京が顔を出して呆れたように呟いた。

「全部これ、千歳ちゃんが?」

「うん、口に合えばいいんだけど」

髪結っていたヘアゴムを解いてキッチンからダイニングに入ると、葵がじーっとあり得ないものを見るように見つめてきた。

「じゃああんた、一体何ができないのさ……」

さっきからずっと、『絶対に千歳は事故る』と怯えていた分、普通に出来上がった朝食を前に拍子抜けしているみたいだ。

一応ずっと片親生活してきた身なんだから、あんまりなめないでもらいたい。

少しじとっとした視線を送ると、葵は気まずげに目を逸らした。

「いや、うちの白藤天馬の料理スキルが壊滅的で、そのトラウマがあって……」

「あー、確かに天馬くんと千歳ちゃんってなんか雰囲気似てるかもな」

ボソボソと言い訳する葵に、何故か同意する京。

私はいまいち納得できず、少し首を傾げた。

どこが似てるっていうんだろう。

不動のエースとして圧倒的な実力を持つ天馬に対して、順位もパッとせず低迷中の私。

どちらかというと、白藤天馬は天鷲翔と重ねるのが筋な気がするけど。どっちも『天』って漢字入ってるし……。

「イケメンっすよね、天馬くん。鷹城葵とかいう人より歌もダンスも上手いし、人気もあるらしいっすよ」

「人気は互角だよちゃんと調べろ」

ここぞとばかりに二番手コンプを擦り始める京に、すぐピキる葵。

この二人、暇さえあればすぐ火花を散らすな。ここまでくるともう逆に仲良いまであるって。

内心呆れつつ、私は俯いてぽつりと呟く。

「喧嘩ばっかしてないで、冷めないうちに食べてほしいな〜……」

今にも喧嘩勃発しそうな雰囲気を断ち切ろうと、ちょっとだけ拗ねたように口を尖らせた。

……案の定、ぴたりと静まる毒舌合戦。

一瞬顔を見合わせたかと思うと、素直に席に着く二人。

やっぱりこの人たち、可愛こぶれば案外チョロいんじゃ……。