……いつもこうだ。
自分はするりと懐に入り込んでくるくせに、こっちが踏み込もうとしたら、こうやってのらりくらりかわされて。
結局私、この人のことを何にも知らない。
もっときちんと深く話せる時間があれば、もう少し理解できる気がするのに。
ちょっと俯いた私の頭を、あやすように軽く撫でる京。
「……ま、とりあえず無茶させてごめんって話。これからは千歳ちゃん使う代わりに俺が脅すから」
「ホントに……?」
こういう怖いもの知らずなとことか、特に理解できないとこ。圧倒的な大先輩に喧嘩売るとか、普通できないだろうに……。
と、内心少し顔を引き攣らせていたところ。
ガチャ、と自室から出てきたのは、ヘッドフォンを首に掛けた葵だった。
「これ以上やってきたらカンナさんに告げ口するけど、普通に」
目にかかる前髪を鬱陶しげにかき上げながら、じっ、と京を睨む。
「一晩泊まるくらいだから許したけど、それ以上何か言うならこっちもカードはあるから」
「うわー……そっかモンペいんのか、だる」
その言葉に、私はエマプロ2期の様子を思い出す。
確かに、静琉は審査の講評でやたら葵を絶賛したりして、SNSで『鷹城葵強火オタク』ってネタにされたりしてたっけ。
まあ、その当時葵は中学生での最年少参加だったし、静琉が気にかけるのも分かるけど。
「……あと千歳、勝手にベッド使っていいから。俺多分ずっと部屋いるし」
京に対してとは打って変わった優しい声音で、葵が私に軽く微笑んだ。
「申し訳ないです……」
「いい、遠慮しないで」
「俺はー?」
またもや私たちの会話に割り込んできた京に、葵は冷たく目を細めた。
「床とか」
「ガチすか?」
「泊まらせてもらえるだけ感謝しなよ。本来豚小屋とかが妥当なんだから」
「それあんたの家ってことっすよね」
「殺すよ」
また始まった……。
いつもの毒舌合戦に、私はちょっと呆れて視線を落とす。
……結局、今日は葵を練習に本気にさせるっていうミッションは達成できなかったな。
京がやってきて完全にタイミングを失ったってのもあるけど、結局のところ原因は、私の考えが甘かったせいだ。
よく考えてみれば、ただでさえプライドの高そうな葵が、私の見え透いた作戦に簡単にハマるわけがなかった。
……悔しい。
こんな調子じゃ、この審査、本当に合格できるかも怪しい。
絶対にこのままじゃ駄目なのは分かってるのに、何もできないままでいる私が、どうしようもなくちっぽけに思えて。
私はひとり、そっとため息をこぼした。
