「……ってか、京、なんで来たの。誘惑しに行けって言ったのは自分なのに」
慌てて話題を逸らして、口説かれそうな空気を回避。
そのまま、物理的にも距離を取ろうとしたら──それよりも先に、ぐい、と肩に腕を回された。
「だってお前、エマから出たでしょ。こっち葵の家に行ったとか分かんねーし、普通に誘拐されたかと思って焦ったの。連絡くらい寄越せって」
肩に回した手で、咎めるように軽く右頬を引っ張ってくる京。
言われてみれば確かに、私の報連相が甘かったかも。
寮を出るなら出るってきちんと第三者に伝えておかないと、いざという時に混乱させてしまう。
もっと周囲に迷惑はかけないように、自分のことは自分で守れるように行動しないとな……。
と、そんなふうに反省はする、けれども。
「……いたたた、」
ちょっと、頬を引っ張るのはやめてもらいたい。
どこまで伸びるのかって勢いでやられると痛いし、あんまり肌に刺激を与えると荒れちゃうんですけど。
……と思って京に視線を向けたら、面白くてたまらないとでも言うように肩を震わせていた。
「ふふっ、かわいー……」
「馬鹿にしてるんだったら怒るよ、」
「あはは、ごめんごめん。今日の千歳ちゃん、なんかいつもより女の子感強くてつい」
ぱっ、と手を離したかと思ったら、今度はそのままするりと両手で頬を包み込んでくる。
「……かわいーな、ほんと。やっぱお前が葵なんかに汚されんのは無理だわ」
くい、と軽く顔が上向かせられ、視線が交錯。
柔らかく微笑んでくる京を前に、思わず少し心臓が高鳴った。
最近、彼の瞳に宿る甘ったるい色が、どこか強くなってるような気がする。
……気のせい、だろうか。
本音かどうかも分からない口説き文句に、なんだか調子が狂いそうになって、私は慌てて彼の手を振り解く。
「だからって、あそこまで葵のこと脅して大丈夫だったの?京だって人のこと言えないほどやらかしてるし……もし同じ手法で仕返しされたらどうするつもり」
話題を変えて、京を咎めるように見る。
プチ炎上中の今の状況、葵が少しでも火に油を注げば、京は番組を降りざるを得なくなるはず。
そこまではいかなくとも、葵は今回審査員の役割も担ってし、あそこまでバチバチに口喧嘩したら、絶対に評価を下げられると思うのに。
峰間京に怖いものってないのかな。
私の問いに、京はちょっと遠くを見るようにして黙っていた。
そして。
「……別にいいんだよね〜。葵はキャリアを守らなきゃいけないけど、俺は守るものないし。芸能界にも興味ないから……最悪落ちてもいい」
ぽつりとこぼされた彼の言葉、その空気に、既視感。
──まただ。
出会った時からずっと感じてる、彼のデビューに対する情熱の無さ。
ずっと気になっていたけど、踏み込んではいけない気がして聞けなかった、彼の内面。
触れるのは怖かった。
けれど、その疲れの滲んだような横顔を見て、どこか放っておいてはいけない気がして。
「……じゃ、京はなんでここにいるの」
つい、聞いてしまった。
軽い調子を作ろうと思ったけど出来なくて、声色が少し硬くなる。
そんな私の様子を知ってか知らずか、京はすっとこちらに視線を流し、一瞬目を細める。
そして。
「──秘密」
そう言って微かに微笑んだ京を前に、喉が詰まるような感覚がした。
