その夜。
私はうっすら明かりの落ちたリビングで、ソファにうつ伏せに寝転がっていた。
顎をクッションに乗せてスマホを操作しながら、うとうとと眠気を感じる。
葵は、流石に本腰を入れて音楽作りを進めないと先方にどやされると言って、作業室に籠城中。
一方京は、『女の子から電話〜』と軽い調子で別室へ。
おおかた、位置情報か何かで寮を出ているのを知られて、お誘いの電話でも来たんじゃないかな。
彼の女癖の悪さに慣れてしまい、もはや呆れすらしなくなっている自分が怖い。
しかも、ここまで女遊びが激しいと、やっぱり情報が拡散するのも早いらしくて。
『エマプロの峰間京、女絡みやばい。写真掘り起こされまくってる』
『なんでここまでやばい過去持ちがエマプロ出れてんの?』
『峰間京がチャラいって情報出てるけど解釈一致すぎて許せてしまう。遊ばれたい』
『この顔で遊んでないって方が夢見すぎ。これだからオタクは』
今Xでタイムラインをスクロールすれば、出てくるのはこの手の話ばかり。
もう既にプチ炎上してるのに、自制しようとか思わないんだろうか……。
ぼやけた思考の中、画面の中の文字の羅列を眺めていた、その時。
背後で扉が開く音がして、身を起こして振り返る。
噂をすれば。
「……京」
「やっほ」
峰間京が、いつもの軽い調子で、ひらひらと手を振ってきた。
「通話は終わったの?」
「ん。会おうって言われたから、今他の女の家っつって切った」
「うわ……」
そういうところだって。
このまま一緒にいると、普通に火の粉がこっちに飛んできそう。
今のうちからある程度、距離を保っておいたほうが良いのかも……そう思って、ほんの少しだけ警戒を込めた目で京を睨む。
けれど。
「……あー、今の顔、かわい」
京は全く意に介せず、むしろ甘やかに目を細めるだけ。
「千歳ちゃんに『バカじゃないの』って感じで見られんの好きだよ割と」
「……特殊性癖やめて」
「やだな、お前にだけだって」
「尚更おかしいんじゃない」
「きっつ」
クスクスと楽しそうに笑って、そのままちゃっかり私の隣に腰を下ろしてくる。
──近いな。
この距離感の近さにも、至近距離で見る整った容姿にも、未だに慣れない。
男らしさよりも中性的な整い方をした顔立ち。
息を呑むほど綺麗なフェイスライン、すっと通った鼻筋と、繊細で長いまつ毛。
それに加えて、とろけるような甘い微笑み、全て見透かしてくるみたいな余裕があって。
これだから女の子たちは、簡単に彼に落ちてしまうんだろうな。
遊ばれてるって分かってても、深くは愛してくれないって察してても。
こういう瞬間の陶酔感を味わってしまったら最後、どれだけ傷ついてもいいって、そう思ってしまうのかもしれない。
──本当に麻薬みたいな人。
だからこそ、私は溺れる前に、きちんと一線を引かなくちゃいけない。
