さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

「翔、あいつマジで運良いしカッコいいしスキルもエグいんすよね。ほんっと羨まし……」

「次、冨上栄輔」

「?!はい!」

完全に油断して天鷲翔について語っていた栄輔は、素っ頓狂な声で返事をした。その様子がモニターに捉えられ、会場のあちこちからクスクスと笑いが漏れる。

「うあっ、やべ」

焦りすぎて、椅子の脚につまずきかけながら壇上へ向かう栄輔。

人間離れしていた天鷲翔の直後の、人間味溢れる栄輔の登場に、会場全体の空気が少し和んだ。

栄輔は、緊張したように唇を引き結びながら、くじを一つ選び取る。
そして、薄目で恐る恐るそれを確認した瞬間、ぱあっと顔を明るくした。

【黒羽仙李 -『KINGMAKER』】

黒羽仙李のソロ曲だ。

アルバムの表題曲でないにも関わらず、有名音楽チャートでロングヒットを記録。
さらには、国民的アニメの主題歌にも起用された、超有名楽曲。

知名度の高い楽曲は、当然、本人と比べられるという宿命を背負う。

けれど栄輔は、そんなプレッシャーなんか微塵も気にする様子を見せず、満面の笑みを浮かべていた。

興奮冷めやらぬまま席に戻ると、栄輔は私に向かって小声でまくし立てる。

「俺、黒羽仙李に憧れてアイドル始めたんすよ!しかもこの曲、LINEのBGMにするくらい好きで!マジ、今回勝てるっ!」

楽しげにそう語る栄輔。

まさか、父親の曲まで課題曲になるとは思っていなかったな。もう二十年くらい前の曲だし。

それにしても、私の課題曲がこれじゃなくて良かったかも。
私、父親のことはあまり好きじゃない。
もしこの曲になって、練習のたびに彼のパフォーマンスを手本としなきゃいけないのは、複雑だから。

そうしている間にも、次々と他の参加者が壇上へ向かう。

先ほど栄輔と喧嘩していた黒髪の元アイドル──皆戸遥風は、ダンスの激しいK-POP曲。
ルームメイトの峰間京は、洗練されたサウンドが特徴的な洋楽アーティストの曲を引いた。

隣では、栄輔が有望な参加者についての解説を熱心にしてくれる。

例えば、一際目立つ明るい金髪の参加者。
童顔で、少女と見紛うほどに可愛らしい彼、兎内陽斗(うだい はると)は、人気アイドルグループ『LiME POP!』の元メンバー。

また、そんな彼とよく似た顔をした黒髪の参加者は、兎内雪斗(うだい ゆきと)。陽斗の双子の弟だという。陽斗があざと可愛い雰囲気なのに対して、こちらはクールな雰囲気。

そして、優しげな顔立ちのどこか憂いを帯びた美貌を持つ参加者。
彼は椎木篤彦(しいき あつひこ)、世界的なダンスコンテストへの出場経験を持つ実力派パフォーマーだという。第一印象は落ち着いた雰囲気だったけど、よく見たら両耳にバチバチにピアスが開いていて、ダンサーを感じた。

今くじを引いているのは、新海飛龍(しんかい ひりゅう)。見るからに治安の悪そうな雰囲気だけど、意外にもその笑顔は人懐こい印象。こちらも、海外で活躍していたストリートダンサーであり、数々のコンテストで賞を獲得してきた実力者だという。

有望株を把握しておくことで、これからの立ち回りもしやすくなる。
とりあえず、今挙げられた参加者たちの地雷を探り、踏み潰していくことが重要だ。

目ぼしい参加者が次々と課題曲を決めていき、残る参加者も数少なくなってくる。

そして、ついに──

「榛名千歳」

私の番が来た。