そう考えた私は、不意打ちで手を伸ばして、葵の髪をさらりと撫でた。
細く柔らかな黒髪が、指の間からこぼれ落ちる。
「早死にしちゃいますよ?」
声色は優しく、速度はゆっくり。
軽く上目遣いで、無防備にゆるく笑ってみせる。
「……」
葵は一瞬息を呑んだように見えたけど、すぐにふいと視線を逸らして、ぽつりとこぼした。
「……好きな仕事のせいで死ねるなら本望」
そのまま、何事も無かったかのようにパソコンに手を戻す葵。
すごく冷静。
けど、その極端な冷静さが、かえって動揺を押し隠そうとするのを表していた。
──おそらく結構効いてる。
ここまで来たら、せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。
本当はすごく嫌だけど──チームのため、私のデビューのためだと思って、出血大サービスだ。
覚悟を決めた私は、葵が少し私から視線を逸らした隙をついて、静かに腕を回した。
「……っ」
──初めて、男の人に自発的にスキンシップをしたかもしれない。
そのまま、ぎゅ、と軽く抱き寄せると、軽く葵の肩が微かに震えたのが分かった。
そのまま、スッと唇を葵の耳元に寄せ、吐息が肌に触れる距離で。
「……強がり」
視線を絡めるように覗き込んで、少し目を細めた、その瞬間。
──ぐいっ!
「……っ!」
葵が、一瞬で距離を詰めてきた。
唇と唇が触れそうになる──その直前。
間一髪で、手の甲を自分の唇にあてがう。
ぴた、と葵の動きが止まった。
「駄目です」
──あっぶな……あと数秒遅れてたらうっかり普通にキスさせるところだった。
