細い煙を吐き出すその横顔をボーッと見ていた時。

「……けほっ」

一瞬、少しだけむせてしまった。

身近にあんまり喫煙者がいなかったから、煙草に慣れてないのかも。

そんな私の反応に、手を止めてちょっとこっちを見る葵。

「嫌い?」

首を傾げ、聞いてくる。

その仕草、急な気遣いに、ちょっとどきりとした。

けど、ここで首を縦には振れない。

子どもだな、って思われたら恋愛対象から外れるかもしれないから。

「大丈夫です!作曲できるようになりたいので、隣から見てます」

「……」

けど、葵は私が無理をしているのを見抜いたみたいで。

黙って灰皿に煙草を押し付けると、ノートパソコンを閉じ、立ち上がった。

……外で吸ってくるつもり?

「あの、先輩……」
焦った私が背後から声をかけたのと同時に、葵は鞄から何かを取り出した。

シャラ、と指先に引っ掛けたのは、キーリング。

「今から家帰るけど、来る?家のが作曲設備整ってるし、教えられる」

「い、今からですか?」

予想外の提案に、ちょっと言葉に詰まった。

家に行ってしまったら、誰の介入もない。

つまり、何をされるかわからないってことでもあって、ちょっと警戒してしまう。

それに──

「外出は許可必要だし、無理なんじゃ?」

私がそう問うと、葵はなんでもないように肩をすくめた。

「俺の名義で申請すれば通るよ。カンナさん俺に甘いから」
「えぇ……」

まだ鷹城葵がどんな人間なのかよく知らない以上、着いていくのは危険かもしれない。

だけど、これを機に葵にアプローチして作戦を進めるチャンスでもある。

迷った挙句、私は──

「行きます」

その答えに、葵の目が少し細められた。

……何を考えているのかわからない、けど。

こうなったら、どんな手を使ってでも練習に本気にさせる。

私は、ひとり密かにそう決意したのだった。