さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


素肌の上に京の指先が触れた瞬間、本能的な危機が大きく警鐘を鳴らした。

ちょっ、待って、流石にやばいって。

考える暇もなく、咄嗟に京の手首をガシッと掴んでいた。

途端、悪戯がバレた子供みたいに笑う京。

「──あ、ダメ?」
「ダメに決まってるし本当に殺すよ」

焦りでバクバクと高鳴ったままの心臓の鼓動。それにつられて抗議の言葉も早口になる。
じっ、と本気で殺意を込めた視線を送ると、京は一瞬きょとんとした後、心底面白そうに爆笑してきた。

「あっはは……ホント可愛いね、お前」

その反応を前にしてようやく、この人は最初から私をただ揶揄いたかっただけなんだ、と悟った。

──ああもう、勘弁してほしい、本当に。

「もう行くから、私。他の女の子と通話でもしてて」

散々弄ばれたことに気分を悪くして、吐き捨てるように言う。
京から距離を取り、手早くバッグを肩にかける私を見て、京はまた揶揄うように笑った。

「やだな、嫉妬しないで?」
「何言ってんの?」

変装用のキャップを被り黒マスクをつけながら、じとっとした目で睨む。
けど、京は私を揶揄うのが面白くてたまらない様子で、全く堪えていないらしかった。

「ごめんごめん、取り敢えずあとでね。気をつけてー」

そう言ってひらひらと手を振る京を無視して、私は逃げるように部屋を後にした。

背後で、カチリ、とドアが閉まる音。

それと同時に、張り詰めていた呼吸が一気にほどけた。

「あー、もう……」

峰間京って、本当に心臓に悪い。

悪ノリが度を過ぎるところもそうだけど、何より、どう接したらいいのか全然掴めないところが、精神を削られる。

いつも軽薄で、人懐こくて、でもふとした瞬間に見せる陰が、本当に別人みたいで。

絶対に本心は見せてくれないんだろうな、って直感してしまうような、そんな歪な存在。

──分からない。

彼が一体どういうつもりで私にやたらとちょっかいをかけてくるのか。

一体どこまでが本気で、どこからが遊びなのか。

とはいえ、私が思うに、全てが遊びだと思うけど──。

「……はぁ」

ぐちゃぐちゃになりそうな思考を吐き出すように、私はひとつ、ため息を落とした。

もうやめよう、京のことを考えるのは。

そんなことより、今の私にはやらなければいけないことがある。

気まぐれな京の言動に気持ちを乱されている暇なんてないんだ。

そう自分に言い聞かせて無理やり思考を切り替えると、私は顔を上げて。

深夜近く、人気のない静かな廊下を、ゆっくり歩き出すのだった。