さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


人をいじるのが生き甲斐みたいな人間に、誰が自分からネタを提供するか、と心の中で毒づく。

それに、未練があることなんて、当の本人が一番分かってるってば……。

ちょっと不機嫌になって、もう会話はおしまいで良いでしょ、とばかりに私は鏡に向き直った。

──と、そのときだった。

不意に、背後から腕が回される。

「……っ?!」

鼻腔をくすぐる、湯上がりの石鹸の匂い。
背中越しに、温かい体温が滲んで、心臓が思い切り高く跳ねた。

──な、何?!

「他の男のことでそんな悩んでんの、気に入らねーんだけど」

吐息混じりの低い声が、至近距離で耳朶を打つ。

ぎゅ、ときつく回された腕は、予想以上に力強くて、振り解ける気配なんかなかった。

京の呼吸が私の首筋に当たって、くすぐったくて落ち着かない。

鏡に映る自分の表情が、明らかに動揺しているのが分かるくらい赤くなっているのが、なんだか悔しかった。

不意に視線を上げた京と、鏡越しに目が合う。

途端、いつもみたいに、甘く目を細める京。

「──さっさと俺にすればいいのに」

理性を絡め取るみたいな、低く掠れた声。

心臓が高鳴って、息が止まる。

熱を帯びたその眼差しは、まるで女の子を恋に落とすために仕掛けられた魔法みたいで、目が離せなかった。

──どうすれば。

思考回路がショート寸前の私を見て、京は少し意地悪く笑う。

そして、私の肩から右手を降ろし、そのままパーカーの中に手を入れてきて。

──って、え?