考えあぐねて黙り込んだ私に、翔の目が細められる。

「わかんないな、千歳くんの目的。あそこまで栄輔のことボロクソに言ってたのに、なんで助けたの?」

「……」

当然の疑問だ。翔から見れば、私の行動は支離滅裂に映るだろう。

じっ、と心の奥底まで射抜いてくるような視線の強さ。

この人相手じゃ、下手に誤魔化しても、きっとバレる。

……少し本音を見せるのが最良策なのかもしれない。

そう考えた私は、ふっ、と苛立たしげに目を細めた。

いつも通り、『問題児』の榛名千歳の仮面を被る。

「俺が、冨上栄輔を好んで助けるとでも?」

その言葉に、少し目を見開く翔。

「自惚れんなよ、頼みを聞いたわけじゃない。ただ、遥風が自滅するのを止めたかった。ああいった形で彼が壊れていくのを、見たくなかった」

乱暴に、けれど確かに。

私の本心を、はっきりと言葉にする。

翔の眉が、わずかに動いた。

「何が言いたいの」

「お前、遥風と昔から仲良いんでしょ?じゃあ、少しくらい彼の危うさに気がついてるんじゃない」

かすかに、息を呑むような気配。

私は続けた。

「遥風を悪役だって決めつけて、冨上栄輔だけを守って正義面してんの、マッジで胸糞悪いわ」

好感はいらない。

ただ、遥風のことをもっとちゃんと見てもらいたくてわざと選んだ、ストレートな荒れた言葉。

心の奥にくすぶっていた想いを、吐き捨てるように言葉に乗せた。

「っ……」

微かに息を呑んだ翔。その腕から、手を離す。

そのまま顔も見ずに背を向け、足を早めてその場を後にした。

角を曲がって、彼の姿が見えなくなったところでようやく足を緩める。

静まり返った廊下に、長く抑えた息がほどけていく。

ここから翔がどう動くかは、分からない。

それでも──

今の私にできることは、これくらいしかなかった。