『SYNDICATE』のイントロが流れはじめ、私たちはダンスを始めた。

体は、覚えてる。何度も隣で踊った振付。

でも──前までとは、全然違う。呼吸も、心も、全然合わない。

そのことに、どうしようもない辛さを感じていると。

ふと、彼がターンしたとき、薄手のシャツの裾がふわりとめくれて、背中がほんの一瞬だけ見えた。

その瞬間、思わず息を呑む。

一瞬だったけど、すぐに分かった。

何度も壁に打ち付けられたみたいなアザ。

私が母親に躾けられていた時にできたものに似ていて、けれどそれよりずっと範囲も広くて、恐らく深刻に内出血してる。

……一体、私の知らないところで何が?

そこで、私は思い当たる。

どこか不安定な精神性、暴力癖、不自然に低い自己肯定感。

家庭環境に問題がある子どもの特徴、すべて当てはまる。

そして、彼をずっと縛ってきた『親』の存在──脳内で、パズルのピースがカチッとハマったような気がした。

──虐待。

どうしてもっと早く、気づけなかったんだろう。

ずっと側にいたのに──鈍感すぎる、私。

音楽が止まり、空気が落ち着いたのに、私の心だけはざわざわとうるさかった。

気付けば、体が勝手に動いていて。

遥風の腕を、掴んでいた。

「遥風……それ……」

声が震えて、まともに言葉になってない。けど、何も言わないままではいられなかった。

彼の目が見開かれ、私を捉える。

深く沈んだ、濁った瞳に、一筋の動揺が走った。

そして。

「……触んなっ!」

鋭く、突き飛ばすように、私の手を振り払う。

まるで、焼けた鉄を掴んだかのように。

その遥風の剣幕に、その場の空気が一気に凍りついた。

……あれ、何やってるんだ、私。

振り払われ、痛みだけが残った手のひらを、ぎゅっと握りしめる。

「……ごめん」

掠れた声で謝る。

遥風は感情の読めない表情で私を一瞥すると、踵を返してブースを飛び出した。

ひとり残された私は、周囲からの視線にいたたまれなくなって、少しの間の後すぐにブースを後にした。

ぐちゃぐちゃになりそうな感情を押し殺すように、唇を噛む。

遥風の優しい声も、笑った顔も、全部思い出の中だけのもの。

分かってるのに、手放したのは自分なのに。

──何を今更。

私は静かに目を伏せ、重たい足取りで廊下を歩き始めたのだった。