さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


目深に被ったキャップを外すと、さらりと濃紺の夜空のような髪が目元にこぼれ落ちる。
相変わらず、ため息が出るくらい完璧な容姿。

「おっ?早いじゃない」

揶揄うように口笛を吹く京。

対照的に、番組スタッフさんたちは驚いたように息を呑んだり目を見開いたり。
当然だ。番組側はもはや、葵を練習に参加させることなど諦めかけていたのだから。

京が、すっと私に身を寄せて囁く。

「……はい、今がアピールチャンスです」
「え、そんないきなりがっついていいの?」
「ヤリチンの扱いはヤリチンが一番よく分かってんの。黙ってGO」
「自慢げに言うことじゃないけど……」

ちょっと呆れてため息を吐きつつ、私は言われた通り鷹城葵に駆け寄った。
今まで培ったアイドルスキルを総動員して、愛想の良い後輩の微笑を作る。

「おはようございます、先輩」
「……あ、おはよ」

ちょっと垂れ目気味の優しげな葵の目が、こちらを捉えた。
私がどう出るのか、面白がっているような表情。

……とりあえず、チョロそうな雰囲気は出しつつも、彼の興味は引き続けないといけない。

そうなった時に効果的なのは、彼の需要に気持ち良く応えること。

女関係に問題がある男っていうのは、基本的に愛情を求めてる、つまり甘えたがり。

妹系、甘えたがりの女の子に対しては、一応需要に応えるけど内心飽き飽きしてる。

代わりに、ダメな自分も丸ごと認めてくれるような包容力を持つ相手を求めてる。

……って、昨日京が教えてくれた。

だから、とりあえず今日はそっちの路線で攻めてみる。

「先輩、疲れ目ですよ。ちゃんと寝たんですか?」

子どもを心配するような、それでいてちょっと呆れたような声音。

「……売れっ子だから、睡眠時間3時間とかなの」

──あ、分かるかも。

これ、『俺、頑張ってるっしょ』っていう甘えた色を含んでる。

やっぱり、京が分析した葵の『需要』は間違ってない。

私は葵の言葉に、ちょっと眉を下げて、愛おしそうに微笑む。

「やっぱり大変なんですね……無理しないでって言っても、無理せざるを得ない時期ですもんね。俺でよかったら、いつでも話聞きますから」

上目遣いで、甘やかすような声音。瞳の奥には愛情を滲ませて。
そんな私に、葵はちょっと黙った後──ふっ、と楽しげに笑った。

「うん、心配してくれてありがと」

そう言って、慣れた手つきで私の頭をさらりと撫でてくる。

……来た、女たらし特有のやけに手慣れたボディタッチ。
私は、ここでちょっと俯いて、照れた素ぶりを見せればいい。

「……はい」

気恥ずかしそうに視線を逸らして、唇をきゅっと結んで。

視界の端で、葵がちょっと満足げに笑ったのが見えた。

──効いた、と思ってんだろうな。

そのまま、間違った『データ』を積み上げていけばいい。

そして、確立したセオリーが通じないことに気付いた時、大いに戸惑って──私を意識すればいい。