オーディション番組におけるネガティブな反応を知りたい時には、いわゆる『伏字界隈』でのエゴサが必要だ。
伏字界隈とは、自分の嫌いな参加者の悪口を、界隈共通の伏字を使って言いまくる界隈のこと。
私は試しに、検索欄に『hrncts』と打ち込んで調べてみる。
すると、案の定。
『hrnctsバズってるけど、そんな上手い?もっと他にクローズアップされるべき子いたでしょ』
『キャラ立ち良いってだけで実力無いのに推される参加者嫌い。hrnctsとかまさにそれ』
……やっぱり、実力に関する辛口評価が多い。
今回の課題曲の振り付けは、やはり女性アイドルのものなので、単純に見える動きが多かった。
だから、『簡単な課題曲で評価されやがって』と、他の参加者を推す視聴者に睨まれてしまったのだろう。
SNSに身を置いた瞬間、気が大きくなる人って一定数いるよなぁ。
そんな風に思いながら、淡々と画面をスクロールし続けていると。
「……お前、そういうの見て平気なタイプなんだ」
ふと、京が意外そうに言った。
……思えば、京には遥風とのいざこざ直後とか、葵の件で焦ってるとことか、弱い部分ばっか見せてる。そのせいで、メンタルの弱い人間だって思われてたのかな。
「別に。こういうのも知っとかなきゃいけないじゃん」
画面から目を逸らさず、さらっと答える。
……今まで、どれだけの罵声を浴びせられてきたと思ってるんだ。
顔も見えない、私の境遇を何も知らない一般人に何を言われようが、痛くも痒くもない。
けれど、京の視線は、じっと私を捉えて離さないまま。
「なーんか、お前って、俺と正反対だよねぇ」
感心したように溢れた言葉に、ちょっと顔を上げる。
「俺は、自分のことを好いてくれてる子の言葉しか聞かないよ。俺を認めてくれない奴は、マジで興味ない」
その言葉に、ちょっと心当たりがあった。
思えば、一次審査の頃の京は完全に私を空気として扱ってた。
それは、初日の私が彼に放った冷たい言葉が原因なんだろう。
『俺を認めてくれない奴』認定されて、完全に彼の世界から消されたんだ。
今は、女の子だっていう要素ひとつで構ってくれてるけど……また何かの拍子に地雷を踏んだら、かなりピンチ。
だって、彼がいないと私は葵に勝てない。つまり、番組側に男装バレしてしまう。
どうせ女だってバレてるし、峰間京にはできるだけ媚びを売っておかないとな……。
と、そんなことを考えていると。
──ガチャッ。
スタジオの扉が開く。
現れたのは、黒いコートを羽織った鷹城葵だった。
