翌日。
まだ朝の静けさが満ちている時間帯に、目を覚ます。
私はベッドから身を起こすと、身支度をし始めた。
いつもより気持ちナチュラルな、ふわっとしたヘアセット。
お尻まですっぽり覆うオーバーサイズのニットをワンピースみたいに着こなして、華奢なシルエットのジーンズを合わせる。さりげなく光る小さなイヤリングをつけて、お風呂上りみたいに自然に香る香水を耳裏にワンプッシュ。
男を狩る気満々の、あざとい榛名千歳の完成。
最後に軽く前髪を整えてから、部屋を出る。
誰も歩いていない廊下で、冷たく澄んだ空気が頬を撫でる。
この落ち着き、割と好き。
ずっと、こういう静かな場所で誰にも干渉されずにいたい。
けど、そうもいかない。今日からの私の行動が、今後の私の運命を決めると言っても過言じゃないんだから。
ちゃんと気を張ってないと。
そんなことを考えながら、私はスタジオに着いて、いつものストレッチルーティンを始める。
昨夜寝るのが遅かったから、いつもより若干眠気が残る。
どうして寝るのが遅かったのか。
それは、昨夜の兎内双子と明頼が帰った後、遅くまで京と作戦会議をしていたから。
どうしたら鷹城葵を落とせるのか。
その心構え、テクニックを、これでもかというほど詳しく教えてもらったのだ。
ぼんやりと、昨日京に言われたことを思い出す。
『ああいうのは、読める女には興味を惹かれないんだよね。だから、あともう少しで完全に落ちるだろってとこからの、急激な引きなんかに弱い。分かる?』
照れて、もう俺のこと好きだろって思わせたところで、スッと引く。
その揺さぶり三段構えをこれ以上ないほど強調された。
『思い通りにいかなければいかないほど、なんで俺の論理が通用しないんだってムキになって、本気になる。引いて引いて、もう半分葵が諦めかけたところで、強烈な一手をくらわせる。恐らくこれでいけるはず』
『強烈な一手って……?』
『媚薬盛って寝込み襲うとか』
『おかしいって』
そんな昨日のやりとりが、はっきりと脳裏に蘇ってくる。
媚薬云々に関してはふざけてると思うけれど、彼の論理に関しては割と納得できるところが多かった。
とりあえず、まずは『こいつ落とせる』と勘違いさせるところから。
と、そんなふうにひとり思考を巡らせていたところ。
スタジオの扉が、カチャリと開いた。
