細身のシルエットに、無造作に顔にかかる長い前髪。
疲れたような美貌の中で光る、鋭い目つきが、スタジオを見渡す。

明らかに異質な雰囲気を纏ったその男性には、見覚えがあった。

『SiESTA』『Sweet×Harmony』『NoirEden』『JACKPOT』……男女問わず、数々の国民的アイドルグループを手がけ、社会現象を巻き起こしてきた伝説のヒットメーカー、巫静琉(かんなぎ しずる)。

EMERGENCE PRODUCTIONの、代表取締役だ。

ピリッと張り詰めた空気の中、彼はマイクを手に、静かに語り出す。

「全国2万人を超える応募者の中から選ばれた精鋭たちが、今この瞬間、一堂に会しました」

威圧感のある、重厚な声音。代表取締役直々の進行に、参加者たちはそれぞれ背筋を伸ばす。

そんな中、私は一人、彼の口ぶりに違和感を覚える。その感じだと、この審査の前に書類選考のようなものがあったってことだよね。私はどうして選ばれたんだろう……榛名優羽の権威？

「EMERGENCE PRODUCTION代表取締役、巫静琉です。このオーディションの進行役、また、審査委員長を務めます」

サングラスの向こうの眼光は、鋭利な刃物のように鋭い。
まるで、もう審査は始まっているとでもいうような雰囲気。
一瞬で会場を支配する存在感。
これが、日本芸能界のトップにまで上り詰めた人間の貫禄。

「最初に言っておきますが、このオーディションは、決して参加者の成長を見守る番組ではありません」

巫静琉の冷徹な声が、広いスタジオに響き渡る。

「あなた方がどれだけ努力したか。どれだけ成長したか。そんなことは審査基準にはなりません。芸能の世界において観客が求めるのは、ただ一つ──『結果』のみです。生半可な気持ちでいる者がいれば、今すぐ帰りなさい」

張り詰めた空気が、さらに重くなる。息苦しさを覚えるほどに。

そんな中、私は巫静琉の言葉に強い既視感を覚えていた。

──お母さんも、同じこと言ってたな。

『見られる仕事なのだから、結果が全て。成長や努力なんて、観客にとってはどうでもいい。ライト層はパフォーマーの背景なんて気にしない。ただ、良いものが見たいだけ』

その価値観は、既に私の中に深く刻み込まれていたものだった。

「では、前置きはここまでにして……早速、最初の課題を発表しましょう」

巫静琉はそう言うと、背後のプロジェクターを指し示す。

派手なエフェクトと共に、画面いっぱいに映し出されたのは──

『個人審査』

の四文字だった。