鼻先を掠めたのは、京がいつも使ってるちょっと大人びた香水の匂い。
そのままシーツの上に押し倒されて、至近距離に京の綺麗な顔。
「……目、合わせて。焦って逸らしたら、余裕ないってバレちゃうから」
……実演って、そういうこと?!
いきなりこんな刺激的な状況の練習しなくても良くない?
顔を真っ赤にしてパニックに陥る私を楽しげに見下ろし、すっと顎を持ち上げてくる京。
「はい、そういうチョロい反応したら男すぐ調子乗るからねー」
「うっ……」
心当たりがありすぎて、返す言葉がない。
口ごもる私の頬をするりと撫でながら、甘やかに目を細める京。
「……あ、上手なキスのやり方教えてあげる。口開けて」
「っ?!」
……だからっ、いきなりそういう練習は色々と段階ぶっ飛ばしすぎだって!
しかも、ちゃんと動けないように体を押さえつけられてるせいでまともに抵抗もできないし。
身じろぎすらできないまま、心臓だけが破裂しそうなくらい全力疾走している。
もう練習だと割り切って受け入れるしかないのか、と覚悟を決め、ギュッと固く目を瞑る。
と、次の瞬間。
──コンコンコン!
乱暴に扉を叩く音。
「兎内双子と明頼でーす⭐︎」
「作戦どーなったぁ?!」
ドア越しに聞こえるハイテンションな声音。
た、助かった……?
思わず安堵のため息を漏らす私。
対照的に、チッ、と軽く舌打ちする京。
「……タイミング最悪だわ」
逃げるように布団から出ようとする私を、片手で引き留めてくる京。
「居留守しようぜ」
「絶対しないです」
はあ、とため息を吐く京を背に、私はガチャッと部屋の扉を開けた。
すると、目の前に現れたのは顔が真っ黒な人間。
「!?!」
盛大にビビって思いっきり後ずさってしまう。
バクバクと高鳴る心臓を抑える私を前に、ダブルピースしてくるその人影。
「あ、僕陽斗ね。美白パック中♡」
そう言いながら、ツカツカと遠慮なく室内へ足を踏み入れる陽斗。
「うわっ、千歳くん女装マジやべえ……峰間京に変なことされてねぇ?大丈夫?」
「……うん」
「その間はなに?!!」
「明頼静かにしろボケ」
雪斗に襟首を掴まれ、ずるずると引きずられるように部屋に入ってくる明頼。
