──ほんとにミスった。

葵が去った後のテラスで、私は1人しゃがみ込んでしばらく頭を抱えていた。

完全に、敵を甘く見てた。

なんとなく、いつもみたいに容姿で押し切れるだろうっていう脳筋的なマインドでいったのが間違いだった。

それもそのはず、葵はトップアイドルかつ女好き。ということはつまり、最高に目が肥えてる。

多分、美人モデルだの女優だのと関係を持ちまくってる恋愛猛者だから、私がちょっと押したくらいじゃ簡単に落とせないのはよく考えればわかることだったのに。

手懐けるどころか、逆にとんでもない『ゲーム』を持ちかけられてしまい、一気に崖っぷちに追い詰められている。

「……どーしよ」

正直、あと1ヶ月で彼のことを落とせる自信なんて皆無。

小さく呟き、フードを目深に被って立ち上がった。

とりあえず今は、人目につかないうちにさっさと自室に撤収しなきゃ。

私はその一心で、自室への廊下を小走りで通り抜ける。

そのまま逃げるように自室に転がり込むと、布団に寝転がっていた京が驚いたように上体を起こした。

「わ、どしたの」
「京……」

私は荒れた呼吸もろくに整えないまま、掠れた声で絞り出す。

「男装、バラされるかも……」
「え?」

目を見開く京に、断片的に事情を説明する。

葵との『ゲーム』に負けて、番組側にバレたら、失格になったら。

優羽は、琴乃を私の代わりにすると言った。

彼女が、大人たちに芸を仕込まれるマリオネットになってしまう。

私みたいに痛い思いをして、望みもしない期待をかけられて、次第に自分を失ってしまう。

焦って今にも視界がぼやけそうな私とは正反対に、全然ケロッとしている京。

自分には関係ないことだからって、落ち着き払いやがって……。

恨めしげに睨むけど、やはりなんでもないように肩をすくめる京。

「ま、上出来じゃん?とりあえず練習は来てくれるってことっしょ」
「そ、それはそうだけどさ……」

頭を抱えて撃沈する私に、ちょっと呆れたようなため息が落ちる。