さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


「……俺を落とそうとしてるなんて、生意気」

耳元で囁くと、千歳が小さく息を呑んだ。

ほんの数センチの距離。

微かに息を呑む音、わずかに赤くなる顔。

──押しには弱い、と。

「いいよ、練習行ってやる。あんたが俺に楽しみを提供してくれるってんなら」

「……というのは?」

少し警戒心の滲んだ声音。

俺はなんでもないように肩をすくめて、さらりと言った。

「俺、ゲーム好きだからさ。一緒に楽しいゲームでもしようよ」

その一言で、彼女の表情が明らかに緩んだ。読み通り。

緊張が解けたタイミングで、彼女の感情を揺さぶるような言葉を。

声を低く落として、唇が触れそうな距離で囁く。

「先に落ちたら負けのゲーム。お前が負けたら──そのときは罰ゲームとして、お前が女だって番組側にバラす」

瞬間、千歳の顔色が見る見る青ざめていく。

その変化に、思わず口元が綻んだ。

面白い。

自分から弱みを曝け出しちゃった時点で、そっちが遊ばれるのは確定なのに。

一体いつまで、この子は俺に本気にならずにいられるのか。それを見てみるのも、案外暇つぶしに悪くないような気がした。

「じゃ、また明日。千歳」

少し意地悪に、挑発するように微笑んでみせた。

硬直する千歳の頭にポンと軽く手を乗せると、俺はさっさと踵を返す。

最高につまんない仕事だって思ってたけど──なーんだ。

めちゃくちゃ、面白くなりそうじゃん。