榛名千歳を初めて見た時、正直、気に食わなかった。
俺は整然としたものが好きだけど、榛名千歳はその対極のような存在だったから。
最初から、印象にちぐはぐさがあった。
守りたくなる儚さがある癖に、深くまで触れようとすると冷たく拒絶されるような。
硝子の檻に閉じこもっているような、そんな不思議なズレ。
俺には無いものを持っている千歳を見て、醜い感情が芽生えた。
こんな生まれつき愛されるような才能の持ち主に、俺が今まで必死に培ってきた技術を奪わせるもんか、と。
つまり、俺があそこまでやる気を無くした原因は、主にこいつにあるってこと。
「……内緒にしてください」
恐る恐る、と言った様子で、上目遣いをしてくる千歳。
……その動作に、完璧な『計算』の気配を感じて、俺はちょっと目を見開いた。
こいつ……俺を落としにきてんな。
そこまでして求める対価は……きっと、俺が練習に参加すること。
「そんな女装で俺を騙そうとしてんの?」
呆れ混じりにため息を吐き、乱雑に彼の髪を掴んでウィッグを無理やり外してやろうとする。
しかし、手に触れた髪は、ウィッグ特有の人工感は無く、シルクのように滑らかで。
強く引っ張っても、根本が浮く気配はない。
「は……?」
思わず、戸惑いの声が漏れる。
千歳が苦々しげな表情で俺を見上げた。
「痛いんですけど……」
慌てて手を離して、改めてまじまじと千歳を観察する。男にしては低い身長、細い首筋、華奢な体型。
「……マジで女の子?」
