さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


……誰?

この場所には、滅多に人が来ないのに。

自分だけの空間を邪魔されたみたいで、少し不機嫌になりながら視線をそちらに移す。

「あれー……?」

真っ黒なパーカーからはらりとこぼれる、色素の薄い髪の毛。透き通った水を連想させる、女の子の声。

……雰囲気は可愛い。スタッフか?

女の子なら、ちょうどいい。ちょっと遊び相手になってもらお。

俺は手すりから体を起こすと、ゆったりと彼女に歩み寄った。

「何か探してんの?」

柔らかく、甘い声音を作って、その小さな背中に声をかける。

彼女が、弾かれたように振り向いた。

その瞬間──時が、止まったかのように思えた。

想像の百倍くらいの容姿の整いように、一瞬脳が追いつかなかったのだ。

雪のように白い肌、長い睫毛に縁取られた、淡く透き通った蜂蜜のような瞳。

それでいて、覗き込んでも底が見えないほどに、深い。

きっと、どれだけ気を引こうとしても、俺の姿なんか映してくれないような。

そう直感的に思わせるような──手の届かない、美しさ。

「あ……」

慌てたように、顔を逸らす謎の美少女。

その仕草、表情の作り方。

どこかで見たことがあって、記憶の糸を手繰り寄せる。

すぐに思い当たった。

今回の企画で、俺が受け持つことになったグループのメンバーの1人。

嫉妬するほど綺麗な顔で、いつもツンと澄ました表情の彼。

「……榛名、千歳?」

俺の言葉に、気まずげに視線を落とす千歳。

記憶とまったく違う彼の姿に、脳内が混乱した。

「どゆこと?」