「まず細縁ベージュカラコンぶっ込んで、肌のトーンはこのまま、クマはちゃんと飛ばす。眉は坂道系細眉で男ウケ意識、涙袋もっと強調して、リップはツヤ系コーラルピンク」
つらつらつら。
右耳から左耳に怒涛の勢いで流れていく説明、バッグから取り出され並べられていくコスメたち。
私は呆気に取られることしかできない。
「すっぴん風メイクは、すっぴんじゃないの。細部まで作り込まなきゃダメなんだよ」
メイクなめんな、と咎めるような口調で言いつつ、早速私の顔にメイクを施していく陽斗。
「おい、ちょっと張り切りすぎなんじゃねぇの?濃くしすぎて素材殺すなよ……」
遠慮がちに口を挟む雪斗を、物凄い形相で振り返る陽斗。
「アイラインは引いたところまでが目だし、涙袋は書いたところまでが涙袋なんだよ。メイクに濃いとか薄いとかねーから」
ギャルみたいな持論を展開しつつ、慣れた手つきでメイクを進めていく。
もう既に、撮影中の『兎内陽斗』のキャラは捨て去り、完全に素の性格で私のメイクだけに集中している様子。
そして、その手腕はやはり本物だった。
数分後。
「はい、サクッと完成⭐︎」
陽斗の差し出した手鏡の中に映る私は、まるで別人だった。
肌は作り込みすぎずナチュラルに、けれどハイライトやシェーディングはしっかり。眉は眉マスカラでふんわり仕上げ。
綺麗にセパレートされたまつ毛、垂れ気味のアイライン、幅広めに作った涙袋。
ツヤ系の自然な色のリップを塗って、男ウケ抜群だというサボン系の香水を振る。
まさに男ウケ全振り、作り込まれたモテメイク。
「ひえぇ……」
「えげつないな」
気を失う寸前みたいになる明頼、あまりの完成度に表情を引き攣らせる雪斗。
そして、めちゃくちゃ面白そうに私の写真を撮りまくる京。
「クッソ可愛い〜。これ皆戸遥風に送ろうぜ。千歳ちゃん連絡先持ってるっしょ」
「絶対嫌だよ!」
ここぞとばかりに悪ノリをしてくる京に、思わず声を張り上げる。
そのノリ、私と京の間でしか通じないし……。
