私は慌ててその空気を断ち切ろうと、口を開く。

「そういえば、雪斗も呼んだんだよね?」

「ああ、遅いよね。LINEは既読ついてるけど」

スマホの画面を確認し、訝しげに首を傾げる京。

ストレスで疲れ果てて倒れてるとかじゃないよね……。

今日スタジオで倒れ込んでいた雪斗の姿を思い出し、少し心配していたそのとき。

コンコンッ。

「悪い、遅れた!」

ドア越しに、雪斗のくぐもった声。

「!噂をすればだな」

すぐさま、ガチャッとドアノブを捻る明頼。

すると、そこに立っていたのは。

「どーもー⭐︎」

雪斗とよく似た顔、しかし明らかに違うテンション感、そして煌めく金髪。

「……陽斗?!」

素っ頓狂な声をあげる明頼を無視して、ズカズカと部屋の中に入り込んでくる陽斗。

そして、その背後に申し訳なさそうに縮こまった雪斗がいた。

「悪い……行くって言って聞かなくて」

その疲れ果てた表情を見るに、おそらく行く行かないの押し問答が長時間あったのだろうと察する。

だから遅かったのね、お疲れ様です……。

一方の陽斗は、遠慮という言葉を知らないようで、ツカツカと私のそばに歩み寄ってくる。

「ふーん、なかなかの出来じゃん。特にウィッグとか、めっちゃ馴染んでる。どこから仕入れたの?」

そう言って、さらっと私の肩まで伸びた地毛を触ってくる陽斗。

うっ、あんまり触られると地毛だってバレるかも……。

そう思って反射的に身を引きつつ、あらかじめ用意しておいた答えを返す。

「小道具倉庫。舞台用のウィッグも色々揃ってたから」
「なるほどね〜。とりあえず及第点ってとこかな⭐︎」

きゅ、及第点?

本物の女子を前に、及第点と言われましても……他にどこを直せば?

戸惑う私に、ずいっと詰め寄ってくる陽斗。

「もっと可愛くなれるでしょ。雪くんのステージの出来はあんたに託されてるんだから、妥協なんて許さない。完璧に仕上げるよ」

その言葉と共に、陽斗が抱えていたバッグをどさっと床に下ろした。

パンパンに膨らんだ、大きな黒いバッグ。

……これ、何入ってるの?

嫌な予感がして、思わず表情が引き攣る。