戸惑うけれど、やはり視線はすぐ逸らされる。

自意識過剰だったか、と思ったけれど。

「……葵を釣れるもの、いっこ思いついた」

少し意味深に唇を持ち上げる天馬。

「女の子」

………?!

心臓が、ズンと沈んだような感覚。

だって、今の感じじゃ、まるで私を見て思いついたみたいな。

まさか、私が女だってこと、バレないよね……?!

さあっと血の気が引いたのがバレないように、ニットの袖を引っ張って顔を隠す。

けれど、天馬の視線が再び私に向くことはなかった。

「てか、そろそろ行かないとスケジュール間に合わなくないですか?」

「ん、確かに」

軽く腕時計を確認し、頷きあう棗と天馬。

どうやら、この後に他の仕事を控えているらしい。

やはり今をときめく売れっ子アイドル、エマプロの仕事だけに時間を割いているわけにはいかないのだろう。

「じゃ、めちゃくちゃ気がかりだけど次の仕事あるから行くね。また何かあったら気軽に相談して」

落ち着いた笑顔を浮かべそれだけ言うと、さっさと踵を返す棗。会釈だけ残し、それに続く天馬。

コートをはためかせ颯爽と去っていく天馬の後ろ姿を、思わずじっと見つめてしまう。

……やっぱり、バレてるのかな。

初日に目が合ったときから違和感は持ってたけど……でも、なんで?

思えば、遥風に男装がバレた理由も、よく分かっていないままだ。

原因も分からず、何故か男装バレしていくなんて怖すぎる。

どこかに私の正体を知っている人がいて、その人が密かに流してるとか……?

顎に手を添え、黙って考え込んでいると。

「いや、解決しねーよっ!!」

半ギレの明頼の言葉が耳に飛び込んできて、思わず小さく肩が跳ねた。

「女で釣れるって言ったって、女子禁制のこの空間で一体どうしろと……」

雪斗も、焦れったそうにトントンとこめかみを叩いている。

先ほど、双子の兄に本気で喝を入れられたのもあって、彼もかなり焦っているのだろう。

そんな中、何か思いついたように唇の端を上げる京。

「ねー、千歳ちゃん」

まるで、悪戯を思いついた子どものような顔。

その表情を見た途端、私は直感した。

……ろくなことを考えてない。

「いやです」

「まだ何も言ってないじゃん」

クスクスと面白そうに笑う京。
その意味深な京の様子を見て、雪斗はその意図を察したらしい。

「お前、まさか……」

「あ?何?」

そして、たった1人何も分かっていない様子の明頼。

「女の子がいなければ、作ればいい……そう思いませんでしょーか」

そう言って、ぐいっと私の肩を抱く京。
背に、じわりと冷や汗が滲む。

「女装してくんない?グループのために♡」

……本当、ろくでもない。