間違いなく、私の一家は芸能界にどっぷりと浸かっている。
父親は伝説的なアイドル、母親は大人気女優。全く関係がないというのは無理がある。
けれど……流石に正直に言うわけにはいかない。
「普通よりはそうかもしれないですね。逆に篤彦くんはどうなんですか?」
ほとんど反射的に、質問返しで誤魔化してしまった。
私のはぐらかし方に少し違和感を覚えたのか、篤彦の目が少し細まった。
不自然だったかな……?
黙ったまま、私は篤彦の反応を待つ。
手のひらに、うっすら汗をかいているのが自分でもわかった。
けれど。
「うちは全然やで。ほんまに俺だけって感じ。芸能界なんか、なんも縁ないわ」
肩をすくめて笑うだけの篤彦に、心臓がふっと弛緩する。
追及されるかと思った。
でも彼は、それ以上踏み込んではこなかった。
助かった……。
「てか京。額どないしたん?赤なっとるけど」
視線を横にずらして、篤彦が自然に話題を切り替えた。
咄嗟に京の顔を見ると、下ろした前髪の隙間から額にうっすら赤みが見える。
私は反射的に視線をそらしてしまった。
今朝──私が、彼を思い切り頭突きした痕だ。
「あ、これな。昨日の夜、スタッフの子襲ったら頭突きされた」
にやりと笑い返し、そう肩をすくめる京。
息をするように嘘を吐く京に、本気で感心してしまう。
「……あっそ。ようやるなぁ、ほんまに」
呆れたようにため息をつく篤彦。
私はというと、無言のまま顔を伏せた。
何も知らないフリをするのが、今の私にできる最善。
と、そのとき。スタジオの奥から声が響く。
「そろそろ収録始まります、カメラ準備入りまーす!」
スタッフの声が、スタジオに響いた。
一気に空気が切り替わり、私の心のざわつきも、緊張に塗り替えられる。
足音、マイクのハウリング、照明の眩しさ。
「行くか」
ニッ、と唇の端を持ち上げ、私の手を引いてくる京。
周囲から、訝しげな視線を感じる。
当然だ。だって、今まで特に絡んでこなかった『峰間京』と『榛名千歳』が親しげに話しているのだから。
「あそこって、仲良かったっけ」
「さぁ……峰間京は椎木篤彦と、榛名千歳は皆戸遥風とばっかつるんでるイメージだったけど」
コソコソと噂する声を背後に聞きながら、私はあらかじめ設置された席へと向かった。
席は、例によって順位の高い順に並んでいる。
私は9位。
今この場に残っている人数は16人。つまり、真ん中よりも下の順位ってこと。
このままだと、デビューの可能性は極めて低い。
なんなら、今回の審査で落とされてもおかしくない。
結構、崖っぷちなんだよね……。
