……蜂蜜を溶かしたような、その甘やかな声には聞き覚えがある。

振り向くと、そこに立っていたのは。

「昨日、大丈夫やった?」

憎らしいほど整った美人顔、椎木篤彦。
腹の底が読めない微笑みを貼り付け、さも心配そうに聞いてくる彼。

「軽く体調崩しただけでした。心配かけてすみません」

私もニコッと営業スマイルを貼り付けて答えると、篤彦は「そーか、安心」とちょっと肩をすくめる。

そして、次の瞬間。

人目もはばからずに私の耳元に唇を寄せ、低く囁いてきた。

「気づいてるかも知らんけど、皆戸くんの件はごめんな。けど、なんの説明も無しに巻き込まれたこっちの身にもなってほしいわ」

……こいつ。
やっぱり、遥風に情報を全て流していたのは彼だったらしい。

お上品な顔して、一筋縄ではいかない曲者さは流石としか言いようがない。

やっぱり性格は顔じゃなくてピアスの数で判断すべきだ。持論だけど、ピアスを沢山開けている人は大抵良くも悪くも性格にクセがある。

椎木篤彦なんかもろアウトだ。

これから誰かを利用するときはピアスが少ない人にしよう……。

と、そんなくだらない思考を巡らせていると。

「はい、終了〜」

ぐいっ。
私と篤彦の間に入って引き剥がしてきたのは、峰間京だった。

「篤彦くん落ち着いて、千歳ちゃんに手出したいって気持ちは分かるけどさ」

「……千歳くんこいつ通報したかったら俺に言ってな」

半ば呆れたように目を細め言う篤彦に、私も少し肩をすくめる。

「てか、お前いつの間に千歳くんとつるむようになったん?どーゆー風の吹き回し?」

篤彦の訝しげな問いに、京は少しの間の後、あっけらかんとして答えた。

「普通に、千歳ちゃんと関係持ちてーなーって思って」
「通報やな」
「冗談に決まってんだろ」
「そうであってもらわな困る」

京と篤彦は、二次審査で同じ『Midnight Candy』グループだったから仲が良い印象だったけれど……どうやら、そこまで馬が合うわけでも無さそう。

流石の篤彦も、京には手を焼いていたのか……なんて思いながら、二人のやり取りを見ていたところ。

「あ……そういえば、千歳くんに聞いとくことあったんや」

ふと、篤彦の視線が私に向いた。