「ちょ、待っ……?!」

押しやろうと伸ばしたその手が、ベッドの上に縫い止められる。

「言うよねぇ、千歳ちゃん」

笑いを含んだ声なのに、その目は笑っていなかった。

その視線の熱に、喉が詰まる。

「強がりのくせに」

京が少し首を傾け、私の首筋に顔を寄せた。

──チュッ。

一瞬だけ唇の触れる感触。

息を呑んで固まる私を、長めの前髪の下、色気に濡れた瞳が見下ろす。

抗議する間もなく、京の手が私の胸元に伸びた。

逃げなきゃいけない。

分かってるのに、金縛りにあったみたいに身体が動かない。

「ほら、ドキドキしてる」

囁くように言われ、胸元に軽く手を添えられて。

……もう限界だった。

──ゴンッ!

反射的に頭を起こし、思い切り頭突きを喰らわす。

「痛っ!!」

額を押さえて京が飛び退いたのと同時に、私はベッドから飛び起きた。

「てめっ、やりやがったな……」

「正当防衛!」

顔を引き攣らせる京にそれだけ言い放つと、私は洗面所へ一直線に向かった。

扉をバタンと閉めると、冷水で思い切り顔を洗う。

ひんやりとした感触が、熱を持った頬を落ち着かせてくれる気がした。

落ち着け、私。

自分のことに集中しなきゃいけないのに、京のペースに巻き込まれている場合じゃない。

デビューだけして、即脱退。

既に破綻しかけているその計画を軌道に戻すためにも、私は京を『手懐ける』側にならなきゃいけない。

京のゲーム感覚の恋愛に振り回されてる暇はないんだ。

しかも、これから始まる三次審査は毎回ユニークな審査方法を導入してくることで有名。

ただでさえ過酷なオーディションなのに、ここで気を抜いたら確実においていかれる。

「……頑張らなきゃ」

自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。

今回の審査は、どんな試練が待ち受けているかわからないけれど──絶対に、生き残ってみせる。