翌日の朝。

まぶたの裏がじんわりと明るくなっていく感覚で、私はゆっくりと目を覚ました。

ぼんやりとした意識の中、ゆるく寝返りを打って──違和感に気が付く。

すぐ近くに、誰かの体温、嗅ぎ慣れない香り。

ハッとして目を開くと、すぐ横で峰間京が枕にもたれかかるようにしてスマホを眺めていた。

「あら、おはよ」

ニッ、と無邪気な笑みを向けてくる京から、慌てて飛び起き、ほとんど反射的に距離を取った。

「え……なんで、一緒に寝てっ……」

動揺する私に、京は髪の毛を無造作にかき上げなんでもないように言った。

「千歳ちゃんがエマプロ見てる間に寝落ちしたんでしょー」

その横顔、その仕草がやけに色っぽくて、ちょっと目を逸らしたくなる。

確かに、昨日はめちゃくちゃ疲れてた。
とはいえ、こんな要注意人物の隣で意識を失うなんて、これ以上ない不覚。

焦る私に、京は甘やかな視線を向けてくる。

「結構ドキッとしたよ、急に俺の肩よっかかってきたの」

「は、」

「もう一夜を共にしたんだからさ、やっぱ付き合わね?俺ら。だめ?」

「一夜を共にってやめて?そういうのじゃなかったじゃん」

誤解を招きかねない表現にツッコむと、京は軽く笑った。

「じゃーどうしたら付き合ってくれんの。どういう奴がいい?お前の好みに合わせるよ、俺は」

男装をバラすとチラつかせれば付き合えるって、分かっているはずだろうに。

意地でもそうしないってことは、私と付き合いたいんじゃなくて私を惚れさせたいだけなんだなって思う。

惚れてしまったが最後、精神をズタズタに引き裂かれ捨てられることは明白。

私は絶対に引っかからない。

「好かれるために合わせてくるような相手、好きにならないよ」

バッサリと言い切って、さっさと諦めてもらおう。
そう思って放った私の言葉に、京の口元が一瞬固まる。

「……へー」

そう短く溢れた京の声に、今までとは少し違った温度があった。
あ、地雷踏んだかも、と思った次の瞬間。

ドサッ。

視界が反転。

柔らかいベッドの上に、背中が沈む。

押し倒されたのだと気づいた時には、すでに逃げ場は無かった。