さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

京は続けて何か言いかけたようだったけれど、思い直したのか、そっと口を閉じた。

部屋に、再び静寂が落ちる。

……何か言うべき?

私がそう思って、口を開こうとしたとき。
京のスマホが、ブーッと軽く振動した。

ポケットから、スマホを取り出す京。

「あ、心寧……」

また新しい女の子の名前を口にして、目を伏せ、文面を確認する京。

そして。

「あ」

やらかした、というように顔をしかめ、そのまま無言でベッドを出ていった。

な、何?

思わず気になって、投げ捨てられたスマホの画面を盗み見てしまう。

すると。

『エマプロ1話見た!一番かっこよかった!!』

……エマプロ、1話。

その言葉に、私もハッと気づいた。

もう今の時刻は午前1時。

日付が変わっている、ということは。

2月1日、エマプロの初回放送日。

ノートパソコンを脇に抱え、京が戻ってきた。

「リアタイするつもりだったのに……千歳ちゃんに気取られてたらすっかり忘れてた」

壁に背をもたせかけ、ノートパソコンを膝に置いて慣れた手つきで操作する京。

「見逃し上がってる」

京に身を寄せ画面を覗くと、動画配信サービスのトップページに『EMERGENCE PROJECT Season3-Episode1』のサムネイルが表示されていた。

「さて、俺の無双回見ましょーか」

「……あんま自分で言わない方がいいよ」

私の言葉にちょっと笑いながら、再生ボタンを押す京。

暗転した画面に、光の粒子と共に『EMERGENCE PROJECT Season3 - EP.1』のタイトルロゴが映し出される。

……ついに、このオーディションが全世界に放送され始めたんだ。

今回の編集がどういう傾向なのか、番組側が求めているストーリーは一体どんなものなのか。

それを掴んで、今後の立ち回りに活かさなきゃ。

私はベッドのブランケットを引き上げ、固唾を飲んで画面を見つめるのだった。