ちょっと息を呑んでいると、そのまま優しく抱き寄せられる。
「やめといた方がいいと思うけど、あいつは。完全に何か訳アリじゃん」
優しい声と手つき。
傷心中に、こんなにも優しくされたら、大抵の女の子は絆されちゃいそう。
……だけど。
『お前が女だったとして、俺にハマらない自信ある?』
昨夜の彼の言葉が、脳裏にリフレインする。
峰間京は、女の子を落としては突き放すことをゲームみたいに楽しんでる人間だ。
一時の優しさに惑わされたら最後、辛い目にあうのは自分。
彼の思惑通りになるわけにはいかない。
「遥風は、悪くないから」
はっきりとした声音で言って、京を押しやった。
京は、少し眉を上げた後、懲りずにニコッと微笑んでくる。
「そーやって変に肩入れするから、依存されちゃうの分かんない?」
「京に関係ないでしょ」
「ふーん」
私のつれない反応に、気が抜けたようにベッドの端に座り直し、軽く伸びをする京。
「傷心中なら、素直に甘えればいいのに」
ぼやくように言う京。その非現実的なまでに綺麗な横顔をちらりと見る。
……京の思考回路って、本当に分かんない。
人の心にするりと入り込んで、自分の心の中には決して踏み込ませない、そんな人。
遥風の心情は、手に取るようにわかった。自分と重なるところが多かったから。
けど、今目の前にいる彼は真逆。
私の脳内とは違いすぎて、まったく読めない。きっと、今まで歩んできた人生も、私とは似ても似つかないものなんだろう。
だって、まともな人生を歩んできた人が、女の子を振り回してどん底に突き落とすことに愉悦を覚えるとは思えない。
「……失恋じゃないし。っていうか、そうだったとしても、失恋した側の気持ちなんて分かるんですか」
ちょっと咎めるような口調でそう呟くと、京は一瞬押し黙った。
つまらなそうに彷徨わせていた視線を、ふっと落とす。
「流石にね」
ぽつり、と静かに落とされた京の言葉。
その声色は、ふざけるでも、茶化すでもなく、妙に静かだった。
いつもの彼からは想像もできない、触れたら壊れてしまいそうな空気を纏っている気がして、何も言えなくなってしまう。
もしかして、彼にも、本気で好きになった相手がいたのかな。
人の心を弄ぶことに長けた彼。
けれど、まるで自分は弄ばれることがないように、慎重に一線を引いているように見えるのは、私の気のせいじゃないはず。
