「いーよ?千歳ちゃんなら可愛いし。今の彼シャツ姿もちょーたまんない、理性飛びそー」
せっかく看病してくれてちょっと見直してたのに、自分からどんどん株を下げに来てるな……。
呆れつつ、私はさっきから気掛かりだったことを聞いてみる。
「あのさ、着替えさせてくれたのって京だよね。その……」
そこまで言って、ちょっとワードチョイスに迷って、言葉を詰まらせる。
そんな私の様子を見て察したようで、京は薄く笑った。
「だいじょぶ、見てないよ」
その声に。ハッと顔を上げる。
けれど。
「ちょっとしか」
付け加えられたその言葉に、表情がひきつった。
それ、見てるってことだよね……。
「千歳ちゃん、細いのに意外と〜なのに、潰しとくのもったいないでしょ」
「きっも……」
「ガチトーンやめて?」
思わずドン引きしてしまうけれど、京はそんな私の様子をむしろ面白がっているみたいだった。
今まで女の子にあまり邪険にされてこなかったから、逆に蔑まれるのが新鮮で好きとか、そういうタイプ?
「……ま、そんなことよりさ」
ギシ、と布団に手をつき、身を寄せてくる京。その距離の近さに、反射的に身構える。
けれど。
「お前、彼氏からDVでも受けてる?」
眼鏡の奥、じっ、と探るような、心配するような瞳。
「彼氏?」
「皆戸遥風」
なんの躊躇いもなくそう答えた京に、思わず必死になって否定する。
「いや、違う!彼氏でもないし、DV的なこともないから」
遥風に対して、誤解を持ってほしくない。
すべては、私が遥風を怒らせた結果。
遥風に嫌われたくなくて、中途半端なやり方で彼を止めようとして……結果、さらに深く彼を傷つけざるを得なくなっただけ。
そのことを思い出すたびに、胸が微かに苦しくなって、目の奥がツンと熱くなる。
と、そのとき。
ふわ、と間近で京の香りがして。
私の髪に、京の細い指が通った。
驚いて顔を上げると、至近距離に京の整った顔立ち。
長いまつ毛が紫紺の瞳に影を落とす。
少し目を細めて、薄く微笑む京。
「失恋?」
