それとほとんど同時に、傍らに伏せていたスマホが短く震えた。白い通知が浮かび上がり、そこに表示された名前を翔の視線が拾う。
「……うわ」
僅かに眉根を寄せる翔を前に、篤彦は薄く口元を緩めると、すぐにスマホを取り上げた。
「見んな」
「その子、まだ連絡取ってるんですね」
「んー」
画面から顔を上げることもなく、気のない返事を寄越す篤彦。
ぼんやりと白い光が整った横顔を照らして、彼の愉しそうな表情を浮かび上がらせていた。
呆れたようにため息を吐く翔。会話が途切れ、微かなジャズと、周囲の笑い声、離れたカウンターからシェイカーの音だけが聞こえてくる。
沈黙を破ったのは、篤彦の方だった。
「キスした」
思い出したように付け加えた彼に、翔は表情を変えずに聞き返す。
「だけ?」
「さあな」
いつもの調子を崩さない目の前の男に、翔は再度ため息を吐くと、冷め切った目を向けた。
「付き合う気もないくせに」
その吐き捨てるような声音に、篤彦はくすくすと楽しそうに笑い、ソファに凭れて腕を組む。
「人のこと言えへんやろ」
「俺のは必要でした」
「好きって言うたんも?」
柔らかい声音と一緒に、ゆるく首を傾げてくる篤彦。
その視線に捉えられる前に、翔はふい、と窓の外へ視線を逸らす。
厚いガラスの向こう側では、時たま車のライトや人影が通り過ぎるのが見えたが、その音は、たった一つとして店内までは届かなかった。
