さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



──カラン。


透明な氷がグラスの内側に触れ、涼しげな音を立てた。


壁一面のボトルラックには、琥珀色や深緑など、落ち着いた色彩のリキュールたちが立ち並び、間接照明の柔らかな光を浴びて柔らかく輝いている。

磨き上げられた漆黒のカウンターテーブル、逆さに吊り下げられたグラスたち。

天井のシーリングファンが、店内を流れるゆったりしたジャズに合わせるように、音もなく緩やかに回り続けていた。


そんなマドゥレイラ郊外、石畳の裏通り、深夜営業のカクテルバーの一角で。

背の高い観葉植物と真鍮の格子に半ば隠されるようにして、二人の男が向かい合っていた。



「なぁ、翔」


椎木篤彦は、スマホに視線を落としたままゆっくりと口を開く。


「なんですか」


名前を呼ばれた翔は、琥珀色の酒に伏せていた瞳を細め、淡々と返す。


こちらを一瞥する素振りもないその様子に、篤彦は薄く笑うと。

手元の画面をカチリと消して、少し身を乗り出し──


「お前、やったな」


探るように、翔の顔を覗き込んだ。

柔らかな照明に透けて、さら、と揺れる柔らかい髪。


翔はグラスの中で揺れる氷を見つめたまま、興味なさげに答えた。


「なんのことだか」

「とぼけんな」


篤彦はくすくすと楽しそうに笑うと、翔から身体を離し、アンティークソファに深く凭れる。


「あの子が必死で整えた盤面ぐちゃぐちゃにしちゃって──とんだ残酷な騎士様やな」


俯いたままの翔の目元に、前髪の影が落ちた。