さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜




「……なんで、止まんなかったんだよ」



ぽつり、と、静寂に落ちる栄輔の言葉。


開け放たれた窓辺から、湿った夜風がゆるく入り込んできて。

薄いカーテンがふわりと膨らみ、また力なく萎んだ。



やがて栄輔は、堪え切れなくなったように、深いため息を吐くと。


次の瞬間──

両手で、勢いよく俺のことを突き飛ばした。


身体が、ぐら、とよろめく。踏ん張ろうともしなかったせいで、ドサッ、と呆気なくその場に崩れ落ちた。



「……なあ、遥風」



掠れた声で、名前を落として。

それでも顔を上げないでいる俺を前に、す、と冷たく目を細めた。



「俺、お前のこと嫌いになりたくなかったよ」



それだけ落とすと、くるり、と踵を返す栄輔。



遠ざかって行く足音のあと──


ガチャンッ。


乱暴に扉の閉まる音だけが、静まり返った室内に響いた。



残ったのは、窓の外から聞こえる虫の声と、遠くの街で鳴り続ける夜のざわめきだけ。




もう目の前には、誰もいない。




それなのに──


俺は、俯いて床に座り込み、ずっと動けないままでいた。