さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



ずん、と胸の底に重いものが落ちたような感覚。

視線を交わしたまま、数秒。ジーッ、と、古いエアコンの駆動音だけが、やけに大きく響いていた。



……栄輔が、俺と千歳の間であったことを知ってる。


千歳が、栄輔に頼ったんだ。



そう思考が接続されると、突き放したのは自分のはずなのに、嫉妬みたいな苛立ちが湧いてきて。

感情を悟られる前に、思わずふっと視線を落とし、自嘲気味な笑いをこぼした。



「……千歳が言ったの?」



──瞬間。


ドッ……!!!!



栄輔の拳が、俺の頬を殴り抜けた。


何が起こったのか分からないまま、身体がよろめいて、壁にぶつかる。


衝撃でカタッ、と倒れるペットボトル。


頬がじん、と熱くなる。



「千歳ちゃんが──言うわけないだろ!!」



ビリ、と。

栄輔の鋭い怒号が、静かな部屋を震わせた。



「……」



栄輔が俺を殴ったのは、これが初めてだった。


いつもヘラヘラしてて、誰かが誰かを殴ろうとするなら止める側。

俺がカッとなって手を出しても、言葉で言い返すだけで、決して殴り返そうなんてしてこなかった、栄輔が。


今、本気で殴った。