目の前の栄輔は、小さく息を呑んだ。
そして次の瞬間、いつもの人懐っこい表情がふっと消えて──
僅かに目を細め、じっ、とこちらを見つめてくる。
「さっき、廊下で遥風とすれ違ったんすけど」
いつもより、ずっと低い声のトーン。
「何かされました?」
びく、と小さく肩が跳ねた。
……なんでもない。
本当になんでもないよ。
私が悪いから。
そう言っていつも通りに笑うつもりで、私は顔を上げた。
けれど、口を開くよりも一瞬先に──
ぽろ、と。
目から、熱い涙が一粒溢れていた。
「……え」
自分でも、何がなんだか分からない。
一度瞬きをすれば、また一粒──
そして次の瞬間には、堰を切ったように溢れて、止まらなくなって。
え、え。
どうしよ、
「千歳ちゃん」
慌てたように目を見開いて、私の背中に手を置く栄輔。
「っ、なんでも、な……」
なんでもない、って言おうとするほど、喉が引き攣る。
声は震えて、言葉にならない息だけが漏れて、最後まで言えない。
