──そして、次に目を覚ますと。

そこは、見慣れた私の部屋だった。

ほのかに漂う、嗅ぎ慣れた洗剤の香り。
夜の静寂に包まれた寮の一室では、廊下から漏れ聞こえる微かな話し声や、時計の秒針の音が際立って大きく感じられる。

私が横たわっているのは、二段ベッドの下の段だった。つまり、峰間京のベッド。

……峰間京とは結局、朝に男装バレしてから一度も言葉を交わしていない。

彼は、私の男装を知って、一体どんなアクションを取ってくるのだろうか。

彼の性欲処理のために、いいように使われる?
それとも、もう既に番組に密告済み……?

寝起きで鈍っていた思考が、どんどん鮮明になってきて、同時に危機感も増幅。

とりあえず京を探そうと、慌てて上体を起こす。

その瞬間、目の前にはらりと長い髪の毛が落ちた。

……ウィッグ、外されてる。

そのまま視線を落としてみると、服装も変わっていることに気がついた。

ステージ衣装ではなく、見慣れない部屋着風のシャツ。
このオーバーサイズ感を見るに、おそらく京の私物。
油断したら肩からずり落ちそうなシャツを引き上げて……そこで、ふと違和感。

これ、下着は?

いつも、胸を潰すために着ている特殊インナー。

それ特有の締め付けが無いことに気がついて、一気に身体中の血の気が引いた。

……峰間京、あの人、全部脱がしやがったな。

と、そのタイミングで。

「……あ、おはよ」

ガチャ、と部屋の扉が開き、京が帰ってきた。左手には売店のビニール袋を持っている。

ゆるっとした部屋着スタイル。
いつもは軽くセットしているような髪が、サラサラのままで額にかかっている。
シンプルな眼鏡をかけ、オフ感が漂う姿。

峰間京は、そのままこちらに来てどさっとベッドに腰を下ろす。私のそばに無造作に胡座をかいて、ビニール服をあさる。

「だいじょーぶ?とりあえず、熱に良さそうなもの買ってきたけど」

そう言って、スポーツドリンク、冷えピタ、ゼリー飲料なんかを私の前に並べる京。

帰ってきたら、着替えについて問い詰めようと思っていたのに……意外な気遣いを前にして、何も文句を言えなくなる。

「……ありがと」

ちょっと俯いてそう言った途端、ぐしゃっと髪を撫でられた。

「珍しく素直♡かわいー」

……せっかく見直してたのに、こういうダル絡みは相変わらず。

抗議するように京を見上げると、今度は面白そうにちょっと目を細めて見下ろしてくる。

「あ。そんな目するんだったら今日の審査結果教えてあげないよ」

京のその言葉に、ちょっと息を呑んだ。

そうだ、審査結果。一番大切なことなのに、色々なことがありすぎて、すっかり頭から消えてた。